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「おとり捜査」に協力し逮捕 男性が佐賀県相手に提訴

2008年03月07日22時09分

 複数人による強盗計画を佐賀県警に通報したのに、「おとり捜査」に協力させられて強盗予備容疑で逮捕され、「共犯」だと虚偽の報道発表までされて名誉を傷つけられたとして、佐賀市兵庫町の中古車販売業、原一弘さん(36)が7日、佐賀県を相手取り、総額330万円の損害賠償を求める訴えを佐賀地裁に起こした。原さんは「強盗をするつもりはなく、共犯ではない。計画を警察に知らせたのに逮捕された」と主張。代理人の弁護士は「違法なおとり捜査だ」と訴えている。

 県警は「捜査は適正だった」としたうえで、報道発表については「原さんが情報提供したことを疑われないようにするため、一部事実を変えた」と認めている。

 原さんは昨年7月29日未明、少年2人を含む3人の男とともに強盗予備容疑で佐賀署に逮捕された。同署は同日、「被疑者らは共謀の上、佐賀市内の民家に押し入り強盗することを企て、目出し帽やバールなどを準備。軽乗用車にのせ、佐賀市の民家の前まで行き、強盗の予備をした」として原さんの名前も発表。一部の新聞に掲載された。

 主犯格の男は現場に行かず、29日午後に同容疑で逮捕。原さんも含め逮捕者は計5人だった。

 訴状などによると、原さんは7月21日、中学時代の同級生で暴力団組員だった主犯格の男から呼び出され、他の男らと一緒に民家を下見。その後、男が強盗計画をほのめかしたという。23日には男に電話で目出し帽を買うように言われ、三つ購入した。

 しかし原さんは、犯行を予定していた28日昼過ぎ、強盗をやめさせようと佐賀署に行き、刑事に計画を知らせたところ、「予定通りやってくれ」と言われたという。犯行に使われる予定だった軽乗用車からバールと目出し帽を取り出していたが、「のせておいてくれないと困る。証拠にならない」とも言われ、再び積み込んだという。

 その後、主犯格の男を除く3人を車に乗せて同日午後3時ごろ、民家に到着。待ち構えていた警察官から任意同行を求められて佐賀署に連行され、29日未明、目出し帽を23日に購入した事案について強盗予備容疑で逮捕された。約20日間の勾留(こうりゅう)の後、8月17日に佐賀地検から不起訴処分(起訴猶予)とされ、釈放された。他の4人のうち成人の2人は起訴され、主犯格の男は実刑が確定している。

 訴状で原さんは「少なくとも28日の件で共犯になることはあり得ない」と主張している。

 記者会見した原さんは「釈放され、初めて警察の発表を知った。名誉を損なわれたうえ、仕事もできなくなった。警察にいいように利用された」と訴えた。原さんの代理人の本多俊之弁護士は「国民を犯罪に駆り立てており、この事案でおとり捜査は問題だ」としている。

 佐賀県警の江口民雄・刑事部管理官は取材に対し「捜査は適正だった。報道発表については、原さんがほかのメンバーから情報提供したことを疑われないようにするため、一部事実を変えた。捜査に協力してくれた原さんが提訴したことは残念」と話している。

    ◇

 〈おとり捜査と泳がせ捜査〉おとり捜査は、捜査員やその依頼を受けた協力者が身分や意図を隠して相手方に犯罪の実行を働きかけ、犯罪に着手したところを検挙する捜査手法。大麻不法所持事件を巡る04年7月の最高裁判決で「直接の被害者がいない薬物犯罪などの捜査で、通常の捜査方法だけでは摘発が困難な場合、機会があれば犯行を行う意思があると疑われる者を対象に行うことは、刑事訴訟法に基づく任意捜査として許される」と、限定的に認める判断が示された。

 泳がせ捜査は、密輸された薬物や拳銃などが発見された際にあえて押収や容疑者の逮捕をせず、不正物そのものや、すりかえた偽物を流通させるなどして追跡し、関係者を一斉に摘発する手法。麻薬特例法や銃刀法で認められている。

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