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【産経抄】3月7日
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米国にあるジョン万次郎ゆかりの家を日本の団体が買い取る計画が持ち上がっている。万次郎らを漂流先の孤島から救ったホイットフィールド船長の旧宅である。荒れ果てて売りに出されているのを取得し、日米の「友好記念館」とする予定だという。
▼この船長というのが、太っ腹で心の広い人物だったらしい。漂流民の中でも聡明(そうめい)な少年だった万次郎をかわいがり、自宅のあるマサチューセッツ州フェアヘーブンという町へ連れて帰った。ここで万次郎に英語や数学、航海術などを徹底して学ばせたのだ。
▼幕末のころである。この奇跡的ともいえるできごとが開国後の日米関係発展に役立ったことは言うまでもない。その意味で船長宅を記念館にする計画には心温まる気がする。だが忘れてならないのは、船長が指揮したジョン・ハウランド号が捕鯨船だったという事実だ。
▼万次郎たちを助けたのも捕鯨の途中だった。1回の航海で数百頭を捕獲していたといわれる。万次郎の生涯を描いた津本陽氏の『椿と花水木』には、港町であるフェアヘーブンの当時の華やぎが登場する。それも捕鯨によるところが大きかったのかもしれない。
▼当時の米国はまぎれもない捕鯨国だった。文芸評論家の佐伯彰一氏は本紙連載『地球日本史』の中で、ペリー艦隊が日本にきた目的として、捕鯨船の補給基地を確保することがあったとする見方を紹介している。日米関係樹立の陰に「捕鯨」もあったといえるのだ。
▼それから約160年後、米国の環境保護団体の船が日本の調査捕鯨を妨害している。公海上で薬品を投げつけるひどさである。いったい自国の捕鯨の歴史をどう考えているのだろう。「時代が変わった」だけで、済まされることではないはずだ。