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混迷 夕張破綻1年:誤算 企業誘致にインフラの壁

売れ残りが目立つ夕張緑陽団地。破綻後、新たな進出企業は現れていない=夕張市沼ノ沢で2008年2月29日、本社チャーター機から近藤卓資撮影
売れ残りが目立つ夕張緑陽団地。破綻後、新たな進出企業は現れていない=夕張市沼ノ沢で2008年2月29日、本社チャーター機から近藤卓資撮影

 雪に埋もれた夕張とは打って変わり札幌は青空がのぞいていた。2月19日午前、札幌市中心部にある三井物産北海道支社の11階応接室。「夕張の優位性は四季を通じた自然。これを生かしたまちづくりをしない手はない」。企業誘致への協力要請に訪れた夕張市の藤倉肇市長らに外の景色を眺める余裕はなく、高木雄次支社長のアドバイスにひたすら耳を傾けていた。

 この日、一行はさらに三菱商事、北陸銀行など4カ所を回った。どこも夕張の苦境を心配してくれるが、具体的な進出企業の紹介までは至らない。人口流出に伴う労働力不足に加え、インフラ整備のカネがない夕張の現実が立ちはだかる。

   ◇  ◇

 夕張市の中心部から南に約15キロ。同市沼ノ沢町内会は今月1日、全452世帯に1枚のチラシを配布した。「地域住民のちからでADSLを開通させましょう!」。作成したのは沼ノ沢で工業団地「夕張緑陽団地」を分譲する中小企業基盤整備機構夕張駐在事務所の西田洋二さん(59)。破綻を契機に市経済部長から新設の同事務所へ、企業誘致の特命を背負って転進した。

 この1年、分譲価格を10分の1に引き下げ、東京と大阪で計173社を集め大々的にPRしたが、新たな進出企業はいまだゼロ。「これじゃあ図面を本社に送信できない。通信回線を速くできませんか」。ブロードバンド時代にADSL(非対称デジタル加入者線)すらない脆弱(ぜいじゃく)な通信インフラが障害となった。

 まとまった利用者がいないとNTT東日本はADSLを引いてくれない。西田さんは同じ市OBの小川昭雄・町内会副会長(61)に協力を求めた。しかし、チラシの呼びかけに応えたのは6日現在24世帯にとどまる。

   ◇  ◇

 「またか」。2月、夕張医療センター(19床)の佐藤友規事務局長(51)は「90万円」と記されたボイラー修理の見積書を見てうめいた。昨春、市立総合病院(171床)から公設民営の診療所に衣替えし、地域医療のスペシャリスト村上智彦院長(46)が鳴り物入りで乗り込んだが、予想外の維持管理費に苦しむ日々が続く。

 道内の同規模の診療所を参考に光熱水費を月250万円程度と見積もったが、総合病院だった建物の光熱水費は年間4000万円を突破する勢い。老朽化した施設修繕費もかさみ、半年分の下水道料金500万円近くの繰り延べを市に求めるほどに経営は厳しい。

 佐藤さんは「このままでは存続の命取りになる」と訴えるが、財政再建計画に縛られた市も身動きがとれない。計画策定時には想定しなかった誤算が夕張を追いつめていく。(=つづく)

 2008年3月7日

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