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2008年3月7日

◎ふるさと納税 市町も寄付の受け皿整えては

 ふるさと納税制度で石川県が金沢城復元整備などに寄付を活用する方針を示したが、県 だけでなく、市町も使途を明示した寄付の受け皿づくりを前向きに検討していいだろう。県外に出た出身者にとっては、ふるさとへの思いは県以上に生まれ育った市や町の方が強いと思われるからである。

 ふるさと納税は国会審議中とはいえ、万一成立しなくても、具体的な施策を掲げて寄付 を呼びかけるという手法は、出身者に生まれ故郷の存在を強く意識させ、自治体にとっても地域づくりのアイデアや実行力が試されるという点で意義がある。その地域の役に立ちたいという応援団的な人や出身者の思いを受け止める仕組みは整えておいて損はない。

 制度の新年度実施を見越し、三月議会で基金条例を提案したり、寄付を募る際の政策メ ニューを提示する動きが全国的に広がっている。島根県は産業振興や環境保全など五項目から選べる「ふるさと島根寄付条例」、鳥取県は子ども施策に特化した「こども未来基金」、鳥取市では「鳥取砂丘応援基金」を打ち出した。石川県が金沢城復元整備を例示したように、寄付を呼びかけるにしてもその地域の象徴的な事業や将来にわたる重要課題を使途に掲げるのが望ましいだろう。

 ふるさと納税は生まれ故郷や応援したい自治体に寄付すれば、金額に応じて居住地の住 民税が軽減される。制度の成立前から基金設置が相次ぐ自治体側の気の早い動きについては、寄付の「分捕り合戦」と批判的に受け止める声も出ているが、財源確保ありきで悲壮感をもって取り組むよりは、出身者にふるさとへの関心を高めてもらう、あるいは自治体応援団を増やす一つの手立てと考えたらどうだろう。

 その場合でも、大事なのは幅広い関心を呼び寄せるだけの施策を打ち出せるかである。 創意工夫を凝らした魅力的な事業であれば個人の純粋な善意がそこに結びつくだろうし、これといった施策が打ち出せなければ思い通りの成果は期待しにくい。

 自治体への寄付はこれまで財をなした出身者がまとまったお金を出す例が多かったが、 ふるさと納税は草の根的な寄付を通して自治体が事業への支持や賛同を得るという点でも意義が見いだせる。

◎中国の軍事動向 不気味な「戦域」の拡大

 米国防総省が先にまとめた中国の軍事動向に関する二〇〇八年版年次報告書は、中国の 活動が「宇宙とサイバー空間」という新たな「戦域」に拡大し、米国とのあつれきが強まっていることを示している。

 折しも中国が公表した〇八年度の国防予算は、前年を17%以上も上回る。二十年連続 で二けたの伸び率で増大する中国の国防費は詳しい内訳が分からず、実際には公表額の二、三倍はあるとも言われる。「中国の軍備は防衛的なものだ」と中国政府は釈明しているが、その程度の説明で国際社会に広がる中国脅威論を払しょくできるはずもない。

 日本政府は、中国の活動が陸・海・空という伝統的な戦域を越えて広がっている現実に 警戒を怠らず、軍事費の透明性向上を絶えず中国に求めていかなければなるまい。

 宇宙と電脳空間における軍事的脅威については、米国も対応が遅れており、中国が昨年 行ったミサイルによる人工衛星破壊実験は米国に強い衝撃を与えた。米国が現在保有する人工衛星は四百基以上で、運用されている全衛星の約半分を占めるといわれる。衛星網は軍民両分野で米国のハイテクシステムを支えており、それを脅かされることは米国にとって死活的な問題なのである。

 その米国も二月に、制御不能になった偵察衛星をミサイルで撃墜し、今度は中国側が懸 念を示すという状況である。米中ともに安全確保のためであり、軍事的な意図はないと言っているが、宇宙における両国のさや当てが高じて大事に至ることがないよう、情報交換などで疑心暗鬼に陥らない仕組みを考えてもらいたい。ゲーツ米国防長官は、衛星破壊に関する情報を中国に提供する用意があると述べている。

 さらに不気味なのは、米報告書が「サイバー攻撃」も取り上げ、その仕掛け人が中国国 内に存在するとの見方を示していることである。国防総省など関係機関のコンピューターネットワークが昨年、中国が発信源とみられるサイバー攻撃の被害を受けたという。中国政府は「事実をねじ曲げている」と反論しているが、いわゆる「電脳戦争」が現実に起こり得ることを認識し、防御策に力を入れる必要がある。


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