中国の通常国会に当たる第十一期の全国人民代表大会(全人代)第一回会議が五日から始まった。国家・政府の新指導部を決める五年に一度の節目となる会議で、初日は今後の政策方針を示す政府活動報告が行われた。
会期中、昨年秋の中国共産党大会で続投が決まった胡錦濤国家主席と温家宝首相が再選され、「胡―温」体制が二期目に入る。
会議冒頭の活動報告で、温首相は中国製品の品質、安全の分野で「真剣に解決すべき問題が依然多い」と認めた。中国製のギョーザ中毒事件には直接触れなかったが、昨年来、世界的に表面化した食品や医薬品などの安全問題を念頭に置いた強い危機感の表れといえよう。
対策として、約七千七百品目の食品、医薬品などで製品の安全基準の整備を目指すと表明した。中国製品への信頼回復には不可欠な対応だが、適正な基準の設定やチェック機能の強化など、実効性のある体制を整えられるかどうかが問われる。
夏の北京五輪については「国際的連携を緊密にし、ハイレベルのスポーツの祭典として成功を確保する」と強調した。大会中は世界から多くの観客やマスコミなどが訪れ、特に「食の安全」には注目が集まるだろう。信頼回復につなげる大きなチャンスである。成果に期待したい。
今年の経済成長率の目標は昨年と同様に8%前後とし、消費者物価上昇率は4・8%以内に抑えるとした。ただ、昨年の成長率は11・4%となり五年連続で二けたの伸びを記録し、景気過熱が懸念されている。不動産価格などが高騰し、庶民の関心は北京五輪よりも物価高に向いているといわれる。
中国は今年、改革・開放政策三十周年に当たる。活動報告は「改革・開放政策は世界の耳目を集める成果を収めた」と自賛した。一方で「経済成長率のみを追求することを防ぎ、経済・社会の良質で急速な発展」を重視すると表明した。
社会保障や医療・衛生、安価な賃貸住宅建設などに対する大幅な支出増を約束した。さらに低所得層への補助策強化を掲げるなど「民生重視」と弱者対策をこれまで以上に前面に打ち出した。
改革・開放路線と市場経済化を推進した結果、格差が拡大し社会に不公平感が一段と広まっていることが背景にある。格差是正などによるバランスの取れた発展を目指す方針は、何年も前から繰り返されてきた。安定へどう軟着陸させるか、「胡―温」体制の正念場といえよう。
保険の契約者が契約時に自分の病歴などを申告しなかったことを理由に保険金が支払われない事態を防ぐため、政府が新たに保険法案をまとめ、閣議決定した。今国会での成立を目指している。
保険金不払い事例の多発などを受けた法整備で、商法の保険契約に関連する規定を新法として独立させる。
現行の商法は、契約者に健康状態や病歴など重要な事実の告知を義務付けている。だが、契約獲得の実績をあげたい保険会社の営業担当者が病歴などを申告させずに契約を交わし、後になって「申告義務違反」として保険金を支払わない事例が相次いでいる。契約者が申告義務を負っていることをたてに、不利を強いてきたといえる。
新法案では、あらかじめ保険会社が設定した質問に、契約者がうそをつくことなく答えていれば、保険会社は原則として支払いを拒否できない仕組みにする。
これまでも質問に答えていれば保険金が支払われるよう約款で定めた保険会社はあったが、法律上の担保はなかった。契約者保護の姿勢を明確にした法整備といってよかろう。いざというとき保険金がきちんと支払われるよう、効果を期待したい。
しかし、今回の法的対処だけで問題が解決するわけではない。営業担当者が申告をさせず契約した背景には、契約獲得重視の経営姿勢があったのではないか。
保険会社は、特約保険金についても支払いに契約者からの請求が必要との説明を怠り、不払いを招いていた。消費者の不信は根強い。問われるべきは、契約者軽視の業界の体質であろう。徹底した契約者本位への転換が、業界に求められる。
(2008年3月6日掲載)