「練炭自殺に代わる、新しい自殺方法が開発されました」――。インターネット上の掲示板では、新しい自殺手段の情報が交換され、集団自殺も後を絶たない。厚生労働省は自殺対策に関する最終的な報告書案を取りまとめたが、「連携体制の構築を図る」「必要な情報の発信を行う」といった抽象的な表現が並ぶ。報告書案は自治体や関係団体が自殺ケアに関するガイドラインを作成する際の指針を示す狙いがあるが、具体的な内容は見えない。(新井裕充)
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うつ病患者の精神科への紹介を評価 失業や倒産、多重債務などで毎年3万人を超える自殺をめぐっては、2006年6月に「自殺対策基本法」が制定され、07年6月に「自殺総合対策大綱」が閣議決定されている。
自殺対策の本格的な取り組みが進む中、厚労省は06年12月に「自殺未遂者・自殺親族等のケアに関する検討会」を設置。自殺対策にかかわる有識者を集めた会議の座長には、上田茂氏(日本医療機能評価機構理事)が任命された。7回にわたる審議を経て、3月4日に最終的な報告書案をまとめた。
報告書案は、(1)前文、(2)自殺未遂者のケア、(3)自殺者親族のケア、(4)ガイドライン作成のための指針――の4本柱で構成されている。
前文では、増え続ける自殺対策が重要な課題であることや、国の自殺対策に関するこれまでの経緯を示した。自殺対策に取り組む必要性や重要性を挙げた上で、自殺はさまざまな要因が複雑に関係していることを理由に「さまざまな視点からの支援が必要」としている。
その上で、「総合的な自殺対策が各地域で、国、自治体ならびに民間団体などにおいて鋭意取り組まれることを期待する」と締めくくっている。基本方針を示すような内容は特に盛り込まれていない。
■ 具体的な方針は見えず
「自殺未遂者のケア」の項目では、自殺未遂者のケアに関する取り組みの方向性を示している。ここでは、医療機関で治療を終えた自殺未遂者をどのように地域に戻していくかが重要になるはずだが、医療機関から地域支援への「一貫したマネジメント体制が不足している」との表現にとどまっている。
これに対し、委員から「医療機関と地域社会との間に入る人材の配置を明確に示すべき」との指摘があった。また、「医師や看護師不足の中で、医師や看護師に自殺未遂者のケアをさせるのは困難」との意見もあった。
自殺未遂者の再企図を防止し、その社会復帰を支援するためには、自殺未遂者のケアに当たる専門的な人材(精神保健福祉士など)の配置を明記する必要があるだろう。しかし、人材配置には財源の問題が絡むため、踏み込んだ記載は避けている。
自殺未遂者のケアについて、報告書案は医療機関や地域における相談体制、民間団体との連携などを示しているが、具体性に乏しい。
例えば、医療機関におけるケアは「治療が終了した後でも引き続き精神科的治療を提供できる体制の充実を図る」とした上で、「精神科救急医療システムを整備する」(精神科の場合)、「精神科医による診療を確保できるような体制を整備する」(精神科以外の場合)としており、「整備」や「充実」といった“役所言葉”が並ぶ。
自殺に関する情報発信は国立精神・神経センターの自殺予防総合対策センター(東京都小平市)などが担当する。しかし、同センターのホームページには、「9月10日からの1週間は自殺予防週間です」と、半年以上も先の日程が掲載されている。
■ 自殺対策のカギは民間団体の活動支援
厚労省は国民に向けた普及啓発に力を入れる方針を示しているが、その効果は未知数だ。報告書案では、「自殺予防週間において国や自治体が連携し、国民に対して自殺未遂者のことも含めて自殺予防に関する正しい知識を集中的に普及啓発する」としている。
しかし、報告書案の「自殺未遂者の実態」によれば、自殺未遂者の4割近くが過去に自殺未遂の経験を持ち、自殺未遂者の81%に何らかの精神障害が認められるという。
パンフレットやチラシなどによる平面的な普及啓発とは別の取り組みが早急に求められる中、NPOやボランティアなど、民間団体の活力を支援する方針を前面に押し出した具体的な政策提言が必要だろう。
この日、NPO法人自殺対策支援センターライフリンク代表の清水康之委員が1枚の紙を各委員に配布した。内容はインターネット上の掲示板の書き込みで、「練炭自殺に代わる、新しい自殺方法が開発されました」という情報がネット上に広まっているという。
「より簡単で、より楽に死ねる自殺情報」が刻一刻と変化し、ネット上で自殺仲間を募る時代。自殺未遂者の背景は健康や家族問題だけでなく、失業や多重債務などのさまざまな要因が複雑に関係しているだけに、国や自治体が積極的に民間団体の活動を支援する方針をもっと強く打ち出してほしい。
更新:2008/03/05 17:42 キャリアブレイン
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医師の山田規畝子さんは、脳卒中に伴う高次脳機能障害により外科医としての道を絶たれました。しかし医師として[自分にしかできない仕事]も見えてきたようです。