◇マケイン氏、イラク政策に先見性 外交ではタカ派色
米大統領選で4日、テキサスなど4州の予備選を制し、共和党の指名獲得を決めたジョン・マケイン上院議員(71)。米メディアから「一匹オオカミ」と呼ばれてきたが、それは党内の主流、反主流のどちらにもくみせず、政策ごとに独自の政治スタンスを取ってきたからだ。その政策は超保守からリベラルまで間口が広い。【ワシントン及川正也】
◇安全保障・対テロ
「次期大統領の責務は(イラク)戦争をいかに速やかに終結させるかを説明することだ」。「安保政策のプロ」を自任し、4日の祝勝集会では演説でまずイラク戦争に触れた。
03年のイラク戦争開戦を主張。大規模派兵を拒むラムズフェルド国防長官(当時)を「史上最悪の国防長官」と非難した。イラク治安安定に効果のあった増派戦略を早くから主張する先見性を見せた。
テロ政策では01年のアフガニスタン攻撃を支持したが、テロ容疑拘束者の扱いを巡りブッシュ大統領と鋭く対立した。ベトナム戦争で捕虜になった経験から拷問を否定し、ジュネーブ条約適用を拒否したブッシュ政権を批判した。中央情報局(CIA)の「水責め」も拷問と位置付け、グアンタナモ基地の収容所の閉鎖を求めている。
◇移民政策
保守派との対立を決定的にしたのが、大企業献金を規制した選挙資金規制法に加え、不法移民に市民権取得の道を開く包括的移民法案を手掛けたことだ。いずれも民主党リベラル派と協調した。
「不法移民は母国に追い返せ」との強硬論に対し、「不法移民は経済の一端を担っており、現実的ではない」と反論する。ただ、選挙戦では「まず国境の安全強化が重要だ」と繰り返した。
◇社会問題
人工妊娠中絶、同性婚、銃規制には基本的に反対で保守派と同一歩調を取るが、柔軟姿勢が目立つ。
中絶を容認した73年連邦最高裁判決の見直しには否定的だったが、選挙戦では暴行や母体への危険がある場合などの例外措置を設けることで、見直し容認派に転じた。
保守派が求める同性婚禁止の憲法修正には「州の判断に委ねるべきだ」と反対票を投じている。銃規制では犯罪常習者や子供に対する一定の規制を主張、購入者の犯歴チェックなどを求めている。
◇財政・経済
「小さな政府」を目指す共和党の伝統的な「財政保守」と自らを規定する。地元利益誘導型のヒモ付き補助金には拒否権を発動すると公約。徹底的な歳出削減が持論だ。ブッシュ政権の高所得者減税に対し、中産層の減税を優先させる立場から当初は反対したが、現在は減税恒久化を要求している。また増税はしないと公約している。
◇外交・対日政策
外交的にはタカ派。親イスラエルで、「イランを爆撃しろ」と冗談めかして発言したこともある。また、ロシアのプーチン政権は民主化に逆行しているとして主要国首脳会議(サミット)から外すよう主張している。
アジア重視の外交政策を打ち出し、特に中国への対応を最重要外交課題に位置付ける。北朝鮮問題では日本人拉致問題を重視。核問題に絡んで中国をけん制する意味から、日本の核武装も容認する。
対日政策では日米同盟重視論者。アーミテージ元国務副長官ら共和党知日派が脇を固める。
昨年、外交誌フォーリン・アフェアーズに「国際社会での日本の指導力と、グローバルパワーとしての日本の台頭を歓迎する」と指摘、日本の国連安保理常任理事国入りも支持する。日本政府にとっては「心強い味方」になるとの声もある。
◇撤退寸前から執念の「復帰」
■「復活劇」
「マック・イズ・バック(マケインが帰ってきた)」。どの会場でも支持者が大合唱したキャッチフレーズは、満身創痍(そうい)で撤退寸前のどん底から指名確定まではい上がったこの1年の浮沈を言い表すのにぴったりだった。
昨年夏には資金難に見舞われ、陣営幹部と対立。「撤退間近」と騒がれた。選対幹部のマーク・マッキノン氏は「崩壊寸前の組織を立て直し、イラク戦略の成功でカムバックした。米国民が本当の最高司令官を求めている証しだ」と強調する。
■「戦争の英雄」
軍人一家生まれ。海軍パイロットとなりベトナム戦争に派兵されたが、撃墜され5年半にわたり捕虜生活の辛酸をなめた。自らの解放より、まず同僚の解放を訴え、帰還後「戦争の英雄」と呼ばれた。
00年大統領選に出馬。「ストレート・トーク・エクスプレス(直言急行)」と名付けたバスで全米を駆け巡り、序盤戦でブッシュ大統領と互角の戦いを演じ「マケイン旋風」を巻き起こした。今回の移動バスも同名だ。
■民主党にパイプ
民主党にもパイプを持つ。00年大統領選の民主党副大統領候補だったリーバーマン上院議員(現在は無所属)と親交があるほか、保守派から批判の強い移民改革法案は民主党リベラル派の重鎮エドワード・ケネディ上院議員と共同で作成した。
毎日新聞 2008年3月6日 東京朝刊