現在位置:asahi.com>社説 社説2008年03月06日(木曜日)付 審議拒否―なぜ主導権をとらぬのか国会が空転している。 先週、与党が新年度予算案やガソリンの暫定税率維持などの税制関連法案を強引に採決したことに民主党が反発し、参院での審議を拒否しているためだ。 道路特定財源のずさんな使い方や道路整備計画のいい加減さが、衆院の審議で次々に明らかになった。それなのに一方的に議論を打ち切ったのは認められない。それが民主党の言い分だ。 与党側は審議を尽くしたとしているが、疑問点に対して説得力のある答弁があったとはとても言い難い。民主党の怒りはもっともなのだが、それを承知のうえであえて言いたい。民主党は参院での審議に応じるべきだ。 審議拒否は、少数野党の戦術として過去の国会で何度も繰り返されてきた。数では与党にかなわないから、日程的な制約を利用して対抗し、譲歩を迫る。それなりに成果があったこともある。 だが、考えてもみてほしい。参院で民主党は第1党なのだ。予算委員長こそ自民党が握っているが、多数派は民主、共産、社民などの野党側である。それなのに少数派の戦術にしがみつくのは、発想が古すぎると言わざるを得ない。 衆院での審議が不十分だったというなら、多数を握る参院でこそ、徹底的に審議する作戦で臨めばいいではないか。 民主党は、道路特定財源が時代に合わない制度であることを訴えてきた。これを福祉や教育などにも使える一般財源にし、ガソリンの暫定税率を廃止する法案を参院に出した。 国政調査権を使って政府にとことん資料を出させ、政府案の問題点を突く。民主党案と並べて論戦を繰り広げる。道路にしか使えない特定財源に疑問を呈する市長らを参考人に呼んでもいい。それが参院選で第1党の座を与えた有権者の期待に応える道ではないか。 民主党からは「与党の謝罪が前提だ」「少なくとも1週間は審議できない」といった声が聞こえてくる。結局は、政策の中身で勝負するよりも、3月末をにらんだ昔ながらの日程闘争に持ち込もうとしていると思われても仕方ない。 与党側にも、注文がある。 きのうまでの2日間、参院予算委員長は職権で委員会を開こうとした。野党が欠席して流会になるのはわかっているのに、福田首相ら全閣僚が委員会室に集まり、野党議員を待ち続けた。審議拒否の無責任さを際だたせる狙いだろうが、あまりに大人げない。 採決強行の非を認めた上で、国会の正常化と修正協議に向けて真摯(しんし)な提案をする。それが与党の責務だろう。 道路以外にも、国会が議論すべきテーマは山積みである。米国発の金融不安で世界経済には暗雲が広がるし、次の日本銀行総裁も早く決めなければならない。防衛省の立て直しや地球温暖化対策も待ったなしだ。 時間を空費している暇はない。
薬害エイズ有罪―市民の生命を守る重さ薬害を防ぐ責任は、第一に製薬会社や医師にある。国の監督権限は二次的なものだから、怠慢があってもただちに公務員個人に刑事責任は生まれない。しかし、薬害エイズのように重大な危険が迫ったときは別だ――。 最高裁はこのように述べ、薬害エイズ事件で業務上過失致死罪に問われた元厚生省課長を、禁固1年・執行猶予2年とした高裁判決を支持した。 公務員の職務怠慢を理由に、国や地方自治体が民事裁判で賠償を命じられることはあるが、担当の公務員個人が刑事罰を受けるのはこれが初めてとなる。 元課長は血液製剤の製造・輸入を承認する責任者だった。それなのに、エイズウイルスに汚染された血液製剤の回収を命じるといった措置を怠ったため、病院で投与された患者1人がエイズに感染して死亡した。 罪の対象になった被害者は1人だが、一審判決が「わが国の極めて広い範囲に危険を発生させていた」と認定したように、実際の影響ははるかに大きいものがあったはずだ。それを考えれば、今回の最高裁の判断は納得できる。 無罪を主張した元課長は「自分には個人の刑事責任が問われるほどの義務はなかった」と反論していた。 これに対して、最高裁は「汚染された血液製剤について、国が販売中止などの明確な指針を示さなければ、安易な販売や使用が行われる恐れがあった。そうした状況では、防止のために十分な措置をとる義務がある」と退けた。政府もこの判断を重く受け止めなければならない。 刑事責任とは別の次元になるが、昨年問題になった薬害肝炎を思い出す。 血液製剤でC型肝炎に感染した可能性のある患者418人のリストを、厚生労働省が放置していた。このときも同省は「患者に知らせるのは医者の責任で、国にその義務はない」として、行政の責任を認めなかった。無責任体質はまだ残っているのではないか。 薬害エイズでは国内で600人を超える死者が出た。その反省から厚労省前に造られた碑には「サリドマイド、スモン、HIV(エイズウイルス)感染のような医薬品による悲惨な被害を再び発生させることのないよう、医薬品の安全性、有効性の確保に最善の努力を重ねていく」とある。 これを死文化させてはならない。薬には副作用がつきものである以上、危険性に関する情報がわかったら、すみやかに対策をとる。それが国民の命を守る行政機関としての最低限の責任である。 厚労省以外の公務員も、ひとごとと考えない方がいい。 最高裁決定は、やみくもに公務員に権限を使えといっているわけではない。薬害のように市民の生命がかかる場合は、一人ひとりの公務員が動かねばならない。そのことを明確にしたのだ。すべての公務員は心してもらいたい。 PR情報 |
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