市場主義と経営2008年03月06日 宇沢弘文氏は、資本主義経済においても、共同体の文化や価値観に深く結びついた「社会的共通資本」のありようの大切さを強調し、市場経済のパフォーマンスもその土台の良否に左右されると言ってきた。その宇沢氏が今、日本の医療崩壊に強い懸念を示している。 ある医療専門誌に寄稿された内容は、保険財政を立て直すための市場原理主義の徹底という政策によって、医師や看護師の疲弊が深まり、また患者からの訴訟の多発など、医療者への信頼と医療者の献身という「信と応え」の関係も対立的な構図に変化した。先進諸国に比べてかなり低水準の報酬にもかかわらず、献身的な使命感で保たれていた日本の高い医療水準は低下しつつあり、その流れはこの4月から始まる「後期高齢者医療制度」によって決定的になるという。 市場原理主義の過剰な徹底、そして患者との「信と応え」の衰弱が医療者の「燃え尽き」を生み出し、医療保険という社会的共通資本を壊している、との指摘には多くの示唆が含まれている。 市場原理の貫徹は当然と受け止める企業経営においても、その徹底の副作用として何か大切なものが失われつつあるという実感があるからだ。それは企業が人間の集団である「共同体」としてもっている側面、例えば社員にとって社会に役立っていると思える働きがいや、はみ出してでも助けようとする連帯感、互いの願いを大切に受け止め個性を生かし合う思いやり、他の痛みに応えようとする共感力などである。それは企業がこれから未到のフロントを切りひらくためには特に重要となる「場」の力である。それはまた、仕事と人生をつないで活力を良循環させる環(わ)でもある。市場原理の徹底による副作用を抑えつつ、こうした場の力をどう高めるか。それは一層きびしくなる環境を生き抜く経営にとって大切な課題だと思われる。(瞬) PR情報バックナンバー |
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