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東海ビジネスマガジン

【Weekend Report】

幾何学模様に野望込め

2007年03月10日

 目にする機会が増えたQRコード。実はトヨタ生まれ。異例の「無償公開」で一気に認知度を上げ、「世界標準」へ打って出る。

 携帯電話内蔵のカメラで取り込むと、ホームページに簡単に接続できる幾何学模様の四角形――。今ではよく目にするこの「QR(クイック・レスポンス)コード」だが、もともとはトヨタ生産方式の「ジャスト・イン・タイム」の中で生まれた。

●在庫管理強化に向けトヨタが開発依頼

 90年代に入るとトヨタ自動車も生産台数の増加や機能の高度化に直面し、部品の在庫管理に使っていたバーコードでは情報量が足りなくなった。タイムリーな在庫管理はトヨタの屋台骨。そこで、バーコードの読み取り装置(リーダー)を作っていた系列の部品大手、デンソーに新たなコード開発を依頼したのだ。
 QRコードの「生みの親」で、現デンソーウェーブ自動認識事業部事業開発室の原昌宏主幹(49)が注目したのが2次元コード。バーコードの数十倍もの情報量を読み取れるからだ。米国企業が実用化していたが、「内製化」がグループの身上。「国産コード」を目指し、豊田中央研究所との共同開発で、着手から約2年後の94年に誕生した。
 生産現場で使うため、「読み取る側の利便性を一番に考えた」(原氏)。4隅のうち3カ所に「■」座標を置くことで、あらゆる角度から読み取りを可能にした。汚れや破損にも強く、最大で3割が欠けても判読できる。自社のリーダーを使えば同じ情報量を米国のコードより10倍早く読み取れるといい、97年から内外のトヨタ工場で使われ始めた。

●カメラ付き携帯電話「想定外」の援軍に

 だが、利用がグループ内にとどまっては、リーダーで収益を稼ぐビジネスモデルにも限界がある。幅広く普及させるにはどうしたらいいか――。デンソーの答えが、数々の特許を取得したQRコードの無償公開という、「2次元コード業界では初めて」(原氏)の決断だった。
 04年からは車検証にもQRコードが採用されたが、国土交通省が当初、検討したのは米国製コード。だが、デンソーにとって官公庁で外国コードが採用されれば、ビジネスでの「敗北」を意味する。トップセールスも含めた必死の巻き返しで採用にこぎ着けた。
 一方、「無償公開」という決断が、思わぬ援軍を呼び込んだ。02年8月、旧J―フォン(現ソフトバンクモバイル)が世界で初めて、カメラ付き携帯電話にQRコード読み取り機能を搭載したのだ。
 物流や流通分野での生産履歴管理を想定していたデンソーにとって、携帯電話ユーザー向けの活用は、まさに「想定外」。だが、その後、携帯各社が追従。カメラ付き携帯電話の普及も手伝い、一気に広がった。
 携帯の読み取り機能は電機メーカーの開発なので、直接の売り上げには結びつかないが、信頼性と認知度が急上昇。これを受けて全日空(ANA)は昨年9月から、QRコードを活用して空港でのチェックインレスサービスを始めた。07年度中に国内の全47空港に拡大する計画だ。厚生労働省も08年度から健康保険証にQRコードを印刷する予定で、営業対象も空港や大手病院に広がる。2次元コードのリーダーの06年の発売台数は携帯電話が出る前の2.4倍に増え、この分野ではいまや国内トップメーカーだ。

●目指すはアジア市場デンソーの挑戦

 デンソーが、次に狙うのは海外市場だ。すでに、国際的に使われる条件となる国際標準化機構(ISO)の国際規格を取得しているが、ライバルは同じISO規格を持つ米国の3コード。すでに欧米中心に実績があり、壁は厚いが、世界への布石として狙うのがアジア市場だ。
 QRコードは1文字のデータを効率的に圧縮して入力できるため、複雑な漢字でも文字化けせずに読み取れる。この優位性を生かして、すでに中国、韓国、ベトナムの各国語に対応して国家規格を取得。ソウル市の税金の請求書のほか、中国の一部で車検証にも採用された。今夏までにはシンガポールでも規格を取得できる見込みで、タイ、マレーシア、インドネシアでも申請を検討する。
 目指すは東南アジア諸国連合(ASEAN)圏での広域物流での標準採用だ。深谷紘一社長も「アジア中心に物流システムを提案する新ビジネスを始めたい」と世界標準に向けた挑戦に意欲満々だ。(寺西和男)

 QRコード 数センチ四方の幾何学模様のなかに、複雑な漢字を書いた原稿用紙(400字詰め)で最大4枚半程度の情報が入力できる。大容量、高速読み取りなどが特徴で、デンソーによると米国企業が開発した同じ2次元コードの「データ・マトリックス」「PDF417」に比べて最大情報量は倍以上という。

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