最初から最後まで練習を見守る |
強い組織を作るためにGMはどんな役割を果たすべきか。祖母井はそのあるべき姿を自分の名前になぞらえ、「Grand Mother(祖母)」であると言う。組織には、離れた場所から見守る「おばあちゃん」のような存在が必要だとの信念だ。
祖母井は、練習中は何も言わずじっと選手を観察し、ひとりひとりの体調やチームの雰囲気を把握することに務める。サッカーに関しては、現場に一切口をはさまないのが祖母井の流儀。自分が選んだ監督にすべてを任せ、現場を信じて「おばあちゃん」のように見守る。
一方で、選手に対しては整理整頓やあいさつの励行をやかましく言い、人としてきちんとすることを求める。「ふだんの生活がルーズだったら やっぱり試合でもルーズになる。サッカーの場合ちょっとした数秒のルーズが 失点につながり負けてしまう」というのが祖母井の考えだ。
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セルビアのデオグラードで選手の移籍交渉に臨む |
強い組織を作るために、祖母井みずからが先頭に立つ大事な仕事。それが選手の補強だ。
祖母井は補強の目的を、単に有能な選手を獲得することだけには置いていない。
新しいライバル選手が入ることによって、今いる選手が発憤し、さらに自分の力を伸ばす。そうした環境を作り出すことが、自らの役割だと考える。
Jリーグ「ジェフ市原」でGMを務めていたころ、祖母井は、レギュラーポジションを確保した巻誠一郎選手(のちのサッカー日本代表)に対してさらなる成長を促そうと、ライバルとなる外国人選手を獲得したこともあった。
さらに、競争によって選手のモチベーションを逆に落としてしまわないようにすることも大切な仕事だ。例えば、選手本人に対して「成長を望むからこそ競争させるのだ」と、ライバルを補強した意図を説明し、納得して仕事ができるように配慮することもある。 |
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さまざまな思惑がぶつかり合うスポーツビジネスの世界では、つねに激しい駆け引きがおこなわれる。こうした一筋縄でいかない世界だからこそ、祖母井は正論にこだわり、筋を曲げることを決してしようとしない。
1月のある日には、移籍候補の選手側が、練習に参加するのに飛行機代を出してくれと言ってきた。このクラブの方針では、練習段階での飛行機代は選手側が負担することになっている。ただし、相手が期待の選手だけに、飛行機代を負担してまで練習に参加させるか、判断が問われる場面だった。
しかし祖母井は即座に交渉を打ち切った。
筋を曲げず、ぶれないことが、リーダーとしての信頼につながり、それを積み重ねることこそが、強い組織の基礎となると祖母井は考えている。 |