この連載では、恋人や家族との人間関係を「メンテナンス」していくことを提案しています。しかし中には、恋愛や親子関係などのようなデリケートな人間関係はメンテナンスできるわけがない、と思われる方もいるかもしれません。
確かに関係のすべてをメンテナンスすることはできません。しかし、メンテナンスできるところまではメンテナンスしておけば、いざという時のダメージが減るのです。
もちろん、ダメージを受けない人間関係というのはあり得ませんが、できれば必要以上にダメージを受けないようにした方がいいでしょう。
「ダメージも含めて人生なのだ、全部を引き受けたいのだ」というのなら、それはその人の選択ですから構わないのです。ただしそれはあくまで自分の趣味ですから、周囲を巻き込むのは迷惑かもしれない、ということも忘れないでください。
連載第8回では、それぞれの人間を法人ととらえて、「自分法人」「他人法人」という考え方をしましたが、家族はまさに「家族法人」です。
そして多くの人は、自分の「育った家族法人」と、自分が「育てる(作る)家族法人」を持ちます。この2つについては、きちんと分けて考えていくことが大事です。今回からはこの「育てる家族」を考えていきます。
「育てる家族」とは、自分も含めた夫婦、子どものことを言います(ペットが入る方もいるでしょう)。ひとり暮らしをしている場合も、「(ひとりで)育てる家族」と言えるかもしれません。
結婚後に親と同居している場合も、「育った家族」(自分の両親や兄弟姉妹)と「育てる家族」は分けて考えましょう。
それまで恋人だった相手も、配偶者やパートナーとなって自分の家族になれば、恋愛関係の時とは事情が変わってきます。
子供についても、「自分の子のことは自分が一番よく知っている」と思いがちですが、必ずしもそうでないことを忘れないようにしましょう。自分が子どもの頃のことを思い出せば、分かるのではないでしょうか。
「育てる家族法人」のメンテナンスとして、ここでは経済や教育面を中心に考えていきます。
「育てる家族」もマーケットで考えるべきですが、その前にまず提案したいのは、夫婦とも働いている家庭であっても、あるいは片方しか働いていない家庭であっても、「こづかい制を廃止しよう」ということです。
家族を法人として考えた時に、夫婦は「共同代表」のような存在です。その共同代表のどちらかがどちらかに「こづかい」を与えるのは、おかしなことです。もしどちらかが金銭感覚に問題があったとしても、それはきちんと話し合って改善していく方がいいでしょう。
そして「こづかい制をやめる」といっても、お互いが好き勝手にすればいいと言いたいわけではありません。
こづかい制の家庭というのは、例えば「夫の財布(口座)」と「妻の財布(口座)」の2つがあり、そのどちらかに家計も含まれているわけですが、ここでは3つの財布(口座)を提案したいと思います。
「夫の財布」「妻の財布」、そして「家族の財布(家計)」の3つの財布(口座)をつくります。そして、「家族の財布」は夫婦のどちらかだけが管理するのではなく、夫と妻で共同管理するのです。
3つの財布(口座)に分ける方法は、両方に収入がある場合でも、片方だけの場合でも、最初に「家族の財布(家計)」の分(ローン、水光熱費、生活費、教育費など)を確保します。これに関してはメインの口座をつくり、カードも2枚つくり、それぞれが持つようにします。
そして、それぞれの財布として口座をつくり、「家族の財布(家計)」の残った分を話し合って配分します。例えば、「仕事の付き合いでこれだけ必要」「趣味でこれだけ出費する」といった額を、お互いにプレゼンテーションしていくのです。ボーナスについても同様です。
家族のプロジェクトのためには、経済問題は重要です。「育った家族」の場合も、「遺産」「介護」プロジェクトなど、金銭面の問題は非常に重要でした。夫婦のような「育てる家族」でも、「不動産」「子供の教育」プロジェクトなど、経済が関わることになります。
そしてこのプロジェクトでは、3つの財布を持つことをお勧めしたいのです。
「家族の財布」の出入りを見るには、月に1回はエクセルなどで資料を作り、それを基に夫婦で話し合うといいでしょう。子どもがない家庭や、大きなお金の出入りがない場合は、もう少し緩やかな管理でも問題ないかもしれません。
マンションを買う、車を買う、海外旅行に行く、子どもを塾に行かせるなどの大きなプロジェクトがある場合は、それに向けて夫婦一緒に考えていきましょう。このプロジェクトを、夫婦のどちらかだけに任せるのはよくありません。
今までこづかい制だったり、どちらかが家計を管理していた家庭の場合、家族の財布を共同で管理するというプロジェクトをプレゼンテーションするのはなかなか難しいかもしれません。
この場合も、第14回で書いたように、「ウェブサイトでこういう記事を読んだから」と言って、話のきっかけをつくってもいいでしょう。「その連載を読んで、このままでは我が家の中長期の目標が立たない、ということに気づいた」と言って、具体的にプレゼンテーションすればよいのです。
何度も書いていますが、プレゼンテーションの時に「あなたのためにそうしたいのだ」という言い方をしてはいけません。「あなたのため」と相手に迫るようなプレゼンテーションをされても、相手は騙されているような感じがして、乗る気になれないものです。
「あくまでも私の欲望からの提案だけれど、あなたにもいいことがあると思う」というようにプレゼンテーションするとよいでしょう。そして「この方法でもし失敗したら、また一緒に考えましょう」と付け加えてください。実際に失敗することもありますから。
他人同士が恋愛の後に一緒になり、つくって育てていく家族だからこそ、相手を尊重し合うメンテナンス術が重要なのです。