日経平均が続落も、魅力減らず
建築基準法の改正で建築確認基準が厳しくなり、住宅着工件数が落ち込んだのは「官製不況」と呼ばれ、福田康夫首相の曖昧な経済政策のために外国人投資家は「構造改革の遅れに失望」し、あげ句の果てに日本を素通りする「ジャパン・パッシング」―。世界の株式市場が軒並み下落する中で、なぜか日本の株式市場はとりわけ評判が悪い。
日本株への不満が目立つ理由は、海外株式市場に比べて日本株の株価下落率が高いためとされる。
確かに日経平均株価は2007年3月の高値18300円から、2008年1月の安値12572円まで、5728円も下落した。
だが2月18日号の日経ビジネス本誌で三菱UFJ証券の水野和夫チーフエコノミストが指摘するように、日経平均株価をドル建てで見ると、特に日本株の下落率が大きいわけではない。(グラフ参照)
日本の株式市場の売買の6割以上を占める外国人投資家の動向は、株価に大きな影響を与える。ある証券会社の売買担当者は「外国人投資家が自国市場の下落で損失が出るのを回避する目的で、アジアで一番売りやすかったのが日本」と解説する。
もともと世界の株価下落の発端は、米国の住宅価格の下落にある。市場の楽観ムードがたびたび裏切られてきたのは、海外金融機関の信用不安が浮上したり、バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長の議会証言が市場で弱気な経済見通しと受け取られたりしたのがきっかけだ。米ドルが売られてドル安・円高になり、輸出で稼ぐ日本企業の収益悪化が連想されて、日本の株価も下落するというパターンが繰り返されてきた。日本の株式市場は、あたかも真犯人に犯人扱いされてしまったかのようだ。
とはいえ2008年の幕開けから、急落した日本株に買いに動く投資家もいる。
なかでも注目されるのは日本の個人投資家と、米金融機関に積極的な投資をする外国の政府系ファンドだ。どんな株価予測も、大方の予想だけが常に正しいとは限らない。異説にも真理が潜むことがあるのは市場の常。日本株買いに動き出した人々は、何をどう判断しているのだろうか。
「中国株で1億円儲けてみせる!」と題する中国株投資をテーマにしたブログを書き連ねる個人投資家のトシさん(ハンドルネーム、29歳)は、中国株への投資歴が5年目。ところが今年1月、保有していた中国株の大半を売り払ってしまい、資金の一部を日本株に移した。日本企業の株価がかなり安い水準に下がったと判断したためだ。
昨年7月のピーク時には、中国の代表的な不動産銘柄である万科企業(バンカキギョウ)などに投じた資金の含み益が3000万円近くに膨らんだ。だが米国の景気悪化が中国に波及する恐れが取り沙汰されたのを受けて、いったん利益を確定した。米国で物が売れなくなると一番ダメージを受けるのが中国で、次は日本の順と判断したためだ。
それで今年1月の中国株急落の難を逃れることができた。今はその資金で、割安となった日本株に一部の資金を投じている。1株当たりの利益に対する株価水準の尺度であるPER(株価収益率)が低く、配当額が大きい新興市場の銘柄などを選んで投資しているという。
トシさんのような個人投資家は少なくない。東京証券取引所が発表した投資部門別売買状況(3市場の1、2部)によると、今年1月から2月22日までに個人投資家は3446億円ほど買い越した。
その金額は外国人投資家の売り越し額6854億円には及ばないものの、売買の行動は明らかに対照的で、投資の発想も異なる。
トシさんは「米国景気の悪化が世界経済に深刻な影響を与える恐れもあるが、中国などアジアの潜在成長力は高い」と話し、むしろ米国株が大きく下がってからが本格的な投資の好機と予想する。
アラブ首長国連邦のドバイやロシア、中国の政府系ファンドも、今年に入って相次いで日本株投資を表明した。中東の政府系ファンドの一角であるドバイ・ インターナショナル・キャピタル(DIC)は、昨秋にソニーへ出資し、今後も対日投資を増やすと宣言している。
DICが組成したグローバル・ストラティジック・エクイティーズ・ファンド(GSEF)のアドバイザリーボードのメンバーに名を連ねるのは元ソニー会長兼CEO(最高経営責任者)の出井伸之氏だ。直接、日本企業への投資決定プロセスに関わるわけではないが、アジア地域の経済やビジネス、テクノロジーの動向などについて助言を行うという。
出井氏は「日本は潜在力の割には株価が安く、日本株には投資チャンスがある。再評価される時期が来る。収益力よりも成長力、海外売上高比率やマネジメント力を重視する。特に海外で価値を創造しているかが大切だ」と強調する。
米ニューヨーク証券取引所に上場する日本企業や、世界の大企業ランキングである「フォーチュン500」に入る日本企業などへの投資機会を探るという。まだまだ日本企業への成長期待は大きいだけに今は仕込み時と言える。
「日本人でありながら、なぜ自国をこれほど無視するのか」
日本株が急落しているさなかの今年1月、殊勝にも日本株の見直しを呼びかけるキャンペーンを始めると発表した投資信託運用会社がある。日興アセットマネジメントだ。資産を効率よく運用するには世界の株式市場に長期分散投資するのが基本で、その中核となる日本株の魅力を再認識しようと機会あるごとに訴えていくという。
同社が日本株の魅力として挙げるのは、日本企業の配当余力が上昇傾向にある点だ。企業利益に対する配当額の大きさを示す配当性向の水準は、欧米企業で30%、アジアの企業でも50%台が多い。ところが日本企業は24%にとどまる。しかし日本企業の多くは、日経平均株価が7000円台まで下落した2003年とは違い、余剰資金が貯まっている(グラフ参照)。
成熟した経済では、設備投資などの再投資の機会は限られる。かといって資金を効率よく使えなければ、買収の標的になりやすい。こうした理屈から日本企業は、配当を増やすか、市場に流通している株を減らして1株当たり利益を向上させる自社株買いを増やすしかない。
日興アセットマネジメントのシニアグローバルストラテジストである磯正樹氏は「日本企業の配当成長率は、利益成長率を上回る可能性がある」と予想する。
このように日本企業を見渡すと、配当や余剰金が多い割安の中堅・新興銘柄から世界で高いブランド力を持つ国際企業まで投資選択の幅は広い。
政府の経済運営や日経平均の動向には映らない底力が潜んでいるということだ。今こそ企業ベースでの評価が大切になる。その中で、トシさんや出井氏らに共通するのは、日本企業の実力はまだ高く、その割に日本株が下がり過ぎという認識だ。
日本株をどんなに過小評価しても、世界の投資家は時価総額の大きさが世界第2位の株式市場の銘柄を一定割合は運用に組み入れざるを得ない。
だからこそ、それに先駆けて実力ある本物の企業を見つけ出す能力を研ぎ澄まさなければならない。