正直、びっくりした。「知的生産術」は、とうとうこんな所まで来てしまったのか、と。
急速に進展するIT(情報技術)とネット社会。この時代にふさわしい知的生産術に、初めて出会った。経済評論家で公認会計士の勝間和代さんが著した「効率が10倍アップする新・知的生産術」だ。
彼女は幼少からIT機器に触れてきた第一世代。ネットにパソコン、携帯端末、メール、ブログ、データベース、グーグル、デジタルカメラ、ICレコーダーなどを自由自在に使いこなす。高度なIT基盤をベースにした知的生産術を、惜しげもなく公開している。
梅棹忠夫氏の名著「知的生産の技術」が出たのは一九六九年。これを嚆矢(こうし)に知的生産術への関心が一気に高まり、立花隆氏の「『知』のソフトウェア」(八四年)、野口悠紀雄氏の「『超』整理法」(九三年)などが生まれた。
彼らが提唱する技術の特徴は本や新聞、手帳、メモ、カードなどアナログが中心。立花氏や野口氏はその後、パソコンやネット活用法などの本も書いているが、デジタル化が進化した今、勝間さんは最新のIT機器を有機的に結びつけている点が何より画期的だろう。
また、これまでの知的生産術に関する名著は、大学教授であれ評論家であれ、いずれも男性だった。勝間さんは女性で、三人の娘がいる。「育児・家事に時間がかかるため、生産性を高めざるを得なかった」ことが、独自の知的生産術につながったという。彼女は新しいライフスタイルを提示している。
(経済部・綾野雄紀)