国内最大手の新日本監査法人(東京)は、元職員の男性公認会計士が監査を担当した企業の内部情報を基に金融商品取引法(旧証券取引法)が禁じる株のインサイダー取引をしていたとして証券取引等監視委員会の調査を受けていることを明らかにした。
調査の対象となっているのは、二〇〇一年に同法人に入社して〇七年六月まで所属していた三十代の会計士という。監視委が発足して以来、監査法人に所属する会計士によるインサイダー取引が発覚したのは初めてだ。
同法人によると、会計士は〇六年二月ごろにサービス業の会社について上司から得た内部情報を基に同社株三百株を取引し、約三百万円の損失を出した。〇七年三月ごろには情報・通信業の会社について、同様の手口で二百六十一株を取引して約三十五万円の利益を上げたとされる。会計士は「ほかの銘柄株の取引で損をして穴埋めしようと思った」と話しているという。
株の取引に際して、会計士は知り合いの女性の名義を借りて口座を開設し利用していた。注文も業務用や私物のパソコンは使わず、漫画喫茶のパソコンや知人の女性を通じて出していた。さらに、会社側に提出する書類では「監査先の株は一切取得していない」と虚偽の申告をしている。隠ぺい工作を物語るもので何とも悪質だ。
会計士といえば、企業の不正な会計操作を指摘するなど証券市場の公正さを保つ重要な任務を担っている。にもかかわらず、職務を通して知り得た情報を利用して、私腹を肥やそうとする行為は監査制度の根幹を揺るがすもので断じて許されない。
株のインサイダー取引に関しては、今年に入ってNHK記者らが外食企業の資本提携のニュース原稿を基に、公表前に株を買い付けて値上がりしてから売却して監視委に摘発されたケースもある。報道機関が取材活動によって情報を得ることは、国民の知る権利などに応えるためである。社会的な使命感や倫理観が欠如した不正が相次いだことに、あぜんとさせられる。
監査業界にとっては、カネボウの粉飾決算や日興コーディアルグループによる利益水増しなどの会計処理に絡んで失墜した市場の信頼回復へ重要な時である。にもかかわらず、再び不祥事が持ち上がったことはコンプライアンス(法令順守)強化の取り組みが不十分ということだろう。業界、関係機関挙げて真相の解明を急ぐとともに、不正のはびこる土壌に鋭くメスを入れ、法令順守を根づかせるよう求めたい。
自治体首長らの政策集団「地域・生活者起点で日本を洗濯(選択)する国民連合」(せんたく)と、超党派の国会議員でつくる「せんたく議員連合」が発足した。
せんたく代表に就いた北川正恭前三重県知事らが一月に構想を発表し、準備を進めてきた。せんたくには首長や学識経験者ら百四十四人、議連には与野党議員百七人が参加した。予想以上の結集ぶりといえよう。
地方分権改革やマニフェスト(政権公約)選挙の推進に向けて政策論議を深め、次期衆院選を「政権選択選挙」とすることを目指す。
せんたく側では、首長らをメンバーにした「地方政府創造会議」が分権改革のあり方などを考え、有識者を中心にした「マニフェスト政治推進会議」が各政党の政権公約を再検証する。
議連側は「国会改革」「霞が関改革・政治主導」など四つの分科会を設け、地方分権や道路特定財源、社会保障問題など国民に身近な課題も協議する方向だ。
昨年夏の参院選によって生じた衆参ねじれ国会では、政局にらみの運営が目につく。重要課題で与野党がしばしば対立し、審議が空転するなど本格的な政策論議は置き去りにされてきたきらいがある。国会の行き詰まりが目立つだけに、二つの会が生まれたことは政策論議を活性化させる動きとして評価できよう。
議連については、次期衆院選や将来の政界再編をにらんだ動きとして警戒感や冷めた見方もある。しかし、せんたくでの検討の成果や提言を、言いっ放しにしないためにも、議連との二人三脚は必要だ。単なる話題づくりで終わらせることなく、政治にインパクトを与えるべきだ。
(2008年3月5日掲載)