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2008年3月6日

 詩人の松永伍一さんが亡くなった。富山の子守唄フェスタや内灘町の文芸スクールの講師として北陸にもなじみ深い人だった

松永さんには、老母が亡くなったとの知らせを受けて突然、母への手紙を書き出す感動的な随筆がある。様々な思いが交錯しながらこんな一言で締めくくる。「母上様、私を生んで下さってありがとうございます」

若いころに、金沢の石川近代文学館で会ったことがある。湯涌温泉に滞在していた竹久夢二が描いた珍しい聖母マリア像の掛け軸が展示されることになり、見に来られたのだった。キリシタン文化の研究でも知られた人である

子守唄も聖母像の研究も、命の源をたどる点で同じだった。富山でも語っていた。「よくぞ生まれてきてくれた」とわが子を抱いた若い母も、老いて子どもに介護される時が来る。その時は、ありがとうの心で「母守り歌」を歌ってあげればいい、と

「生んでくれと頼んだ覚えはない」などと憎まれ口はたたきやすいが「ありがとう」は、なかなか言えない。詩人の「亡き母への手紙」を超えるには、老いた母が元気なうちに言うしかない。どんなに喜ぶだろう。


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