松本清張「西郷札」結末の一解釈
まず、一地方の騒動以上に事件が表面化しなかったのは何故か?
と思う読者の疑問に答えるため、実は暗殺という暗い話が絡んでいたとする真相を持ち出しています。

更に、その暗殺自体も記録に残っていないのは何故か?
という疑問の説明として、暗殺は失敗したが狙われた塚村は失脚、政府の圧力か何かで事件は完全に封印された(関係者の記憶からも抹消された)、と想像させる記述になってます。
(もし暗殺が成功していれば急死の記事くらいは残る方が自然ですし、塚村の名が歴史に残ってないのは表舞台から追われたことを想像させます)

あらためて作中での覚書以外の事実(史実)設定をまとめると、

① 当時、政府の札引換えの風説が宮崎で流れてる(地方紙の記事)
② 塚村の暗殺を報じたり示唆する記事記録は存在しない
③ 塚村は出世頭だったはずなのに後に栄達した記録が無い

①は覚書の宮崎での札買占め実行と対応してます。
②は覚書の最後(暗殺計画の部分)が破棄されてることと対応してます。
(封印された暗殺の部分を持ってるのはヤバイ)
また②③は覚書自体がフィクションである可能性も示唆してます。
(塚村が実在しないなら現実の記録があるはずも無い)

つまり最終的に史実と両立する方向で話をまとめてると考えられます。
読者が覚書を事実と読んでいてもフィクションと読んでいても、どちらでも史実と辻褄が合うように書かれてるわけです。
(ただしこれが結末が非常に解り難い原因にもなってます)

また粂太郎や甚平が後に真相を告発した記録も無い(という設定になってる)ことから、相当な圧力が掛かった(という設定になってる)ことも想像できます。
従来ほとんど指摘されてないようですが、後の「黒い霧」に繋がる陰謀論(時の政府政権の圧力)が処女作から暗示されてるのも興味深いですね。

ちなみに粂太郎のモデルは清張の父・峯太郎(相場師の経験有り)でしょう (^^



以上、あくまで一解釈ですから、色々と穴があってもあんまり叩かないで下さい (^^;



crooc
投稿日時 : 2008-03-05 22:05:41
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