2008年3月3日

覚えている限りの日本語を使いたくてたまらない、その標的をやっと見つけた。
そんなチャーリー（監督）の意欲は、試合中でも変わりません。
こっちが真剣に打席に向かおうとしているのに、
後ろからのほほーんとした口調で、
「タグチサーン、ヒットー、ヒットウッテウッテヨ〜？」
・・・おかげで日々、心温かに過ごさせていただいております。

ところで明日は遠征免除。
チームは２時間かけてオーランドに行くのですが、
僕は初めて、メンバーから外れて、実質上の、「午前中練習のみの休日」となりました。
遠征メンバーは、貼り出されている選手の名前に、蛍光ペンでハイライトがしてあるかどうかで
わかります。そっと覗き込んで、自分の名前に蛍光色がついていなかったときには、
あまりのうれしさに飛び上がって、まわりから笑われてしまいました。

３８歳、野手最年長。移籍してきたばかりとはいえ、チーム内での扱いは「ベテラン」で、
なのに遠征から外れたといって、猿のように飛び上がっている。
僕には年齢に見合った、どっしりとした風格がない。まるでない。
時々自分が無性に恥ずかしくなります。

フロリダ州クリアウオーターにて　田口壮　

2008年3月2日

「おー！俺のお気に入り、来たかあ！」と、ティノが満面の笑顔で迎えてくれました。

カージナルスで一緒だったティノ・マルティネス（もと一塁手）は、
現役のほとんどをヤンキースの顔として過ごし、
選手としての晩年にカージナルスに移籍してきました。
上がったり下がったりしていた頃の僕にとっては、憧れの人。
ハンサムで、穏やかで、ダンディーな人格者という
突っ込みどころのまるでない彼は、
一番苦しかった時期を、言葉で、態度で、支えてくれた選手の一人。
数年ぶりの再会に、試合前から浮き浮きしてしまいました。

そしてもう一人。ジョー。
もう気軽に話しかけるには、なんだか難しい立場になった、
ヤンキース監督・ジョー・ジェラルディー。
彼もまた、カージナルスで現役を締めくくった一人です。
ティノ相手のように、わあ、っと近寄ってハグ、というわけにはいかないけれど、
打席に入った時にたまたま目が合って、
ニヤッと顔を動かして、挨拶してくれました。
ヤンキース戦って、なんだか同窓会みたいですごくうれしい。

しかし、戸惑うのも、ヤンキース戦ならでは。
今日はクラブハウスにものすごい数の日本人記者がいたのです。
いったい何が起きたんやろ、と不思議に思って、ああ、ヤンキース戦だから、と
気がつきました。松井選手が出場せず、井川投手も投げずで、
僕のところにやって来ざるを得なかった、という方がほとんどで、
仕事とはいえなんだか気の毒な雰囲気。
一方僕は、カージナルス時代に輪をかけて日本人記者の姿を見かけなくなったので、
アメリカのメディアに囲まれるより緊迫します。
きっと僕のことはあまりご存知ないだけに、懇切丁寧にしゃべらないと、
理解してもらえないだろうと、力が入ってしまうからです。

試合より疲れた？

フロリダ州クリアウオーターにて　田口壮　

2008年3月1日

外野手にとって、フェンスとの接触は避けることのできないもの。
一見クッションが効いて柔らかそうですが、実際は固くて痛い。勢いよくぶつかったら、
身体は相当のダメージを受けます。しかも、フェンスの下のほうはコンクリートでできているため、
ひざでもぶつけようものなら、骨折しかねないのです。ファンにとってはダイナミックな
フェンス際のジャンプも、外野手にとっては、
（獲るぞ、獲ったる、あー当たるの怖い、痛い、でも、あー、えーい、飛べー！）といった感情が、
数秒の中に凝縮された行動なのです。

中でもシカゴのリグリー・フィールドは、やりづらさワーストワン。
ツタがからまる雰囲気あるフェンスの中は固いレンガで、
突っ込んでいくと大変痛いのです。さらに、ファウルグラウンドに、
「ワーニング（警告）ゾーン」が、ない。

ワーニングゾゾーン、というのは、外野フェンスの内側を沿うようにある土の部分で、
球だけを見て動く外野手に、芝が途切れることで「間もなくフェンスがありますよ」と教えてくれます。
しかし、リグリーフィールドの、左右のファウルラインの外は、すぐにフェンス。
ファウルを獲りにいくのは、壁に当たりに行くのと同じことです。
審判にとっても、ボールがフィールドに落ちたのか、
フェンスに当たったのかが、非常に見分けにくい球場です。

今日僕は、フィリーズのキャンプ中の本拠地・ブライトハウス・フィールドで、
ファウルを獲った際に、フェンスに激突しました。
勢いに任せて突っ込むと、フェンスの向こうにある椅子やテーブルの中に落ちていくのがわかっていたので、
怪我を避けたくて、無理やりフェンスに当たって食い止めたのです。

試合後トレーナーが、
「大丈夫だったか！？見せてみろ！」と言ってくれたので、
真っ赤になってしまった胸からお腹を、シャツをめくりあげて見せていたところ、
「なんだ、シックスパック（６つに割れた腹筋）の自慢か？」と、まわりの人たちにからかわれてしまいました。
「いや、乳首だ」
と真顔で答えたら、誰もからかわなくなりましたが、引かれました。
今、ちょっと後悔しています。

フロリダ州クリアウオーターにて　田口壮　

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