【独女通信】独女が男を殺すとき１　「殺した相手は、父か？ 夫か？」

警察庁統計によると平成18年度の殺人事件検挙総数は1,241人。うち女は246人で全体の約20％だ。実はこの比率、30年ほどあまり変化がない。「ああ、やはり女性が殺人を犯す率は低いな」と単純に考えるのは早い。もちろん、女性の凶悪犯罪者は男性に比べれは大変少ないのだが、暴行(約６％)や傷害（約８％）、強盗（８％）などのその他の凶悪犯罪における男女比を考えれば、殺人の比率はずば抜けて高いと言える。その原因には諸説あるが、面と向かっての暴力で圧倒的に不利な女は、睡眠中など相手が油断している隙に、暴挙に出て確実にしとめようとするからではないかとも言われている。

どんな感情が渦巻き、いかなる境界線を越えてしまうとき、女は人を殺してしまうのか――。

ここでは被疑者が独身女性で、被害者が男性であった場合に的を絞り、いくつかのケースをシリーズで紹介していこうと思う。

さて、被害者と被疑者の関係を前記と同じく平成18年度の検挙人数で見てみると、被害者が配偶者であるのは179件だ。このうち「被害者が女」であるのが117件。つまり62件は妻が夫を殺したということ。となると、配偶者による殺人のうち、妻が夫を殺す件数は3割以上。そして平成１８年の「女性殺人犯」が246人という事実を合わせて考えれば、つまり女が殺す相手の実に25%が夫ということになる。「夫の暴力」「痴情のもつれ」など、妻が夫を殺す動機は、いろいろと想像がつく。しかし、こんなケースはどうだろうか。
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昭和43年10月５日。栃木県矢坂市に住むＡ子が、同居している父を殺したと隣家に駆け込む。彼女はすぐに逮捕され、尊属殺人罪（親殺し）で起訴された。動機は「父に結婚を反対されたから」。しかし、この事件は一部の週刊誌を除き、報道が自粛された。それは実父に近親相姦を強いられていたためだ。

Ａ子は14歳の頃から実父に性的虐待を受け始めた。それを知った実母は、弟や妹を連れて家を出てしまう。残されたA子への性的虐待は続き、17歳で最初の子をもうけて以後10年以上も実父と3人の娘と“夫婦同然”の生活を強いられることとなる。５人の子を産み（２人は生後まもなく死亡）、この他に何度も中絶させられ、後に不妊手術を受けていた。

しかしA子が29歳になったとき、ある青年と恋に落ち結婚話が持ち上がるが、父に打ち明けたとたん連日連夜の脅迫とさらなる虐待を受けることになる。そして、ある日Ａ子は泥酔した父の首を紐で絞めたのだった。

当時尊属殺人（親殺し）は非常に罪の重いものだった。しかしＡ子に情状酌量の余地があるとされ、地裁では「過剰防衛および心神耗弱」を認め、異例の無罪判決となった。

その後検察側は上告し、東京高裁では「心神耗弱」のみを認め、懲役３年６ヵ月の実刑を言い渡した。その判決に対し、被告側が上告。最高裁の出した判決は「懲役２年６ヵ月、執行猶予３年」。この事件は「尊属殺人（刑法200条）」を違憲とした事件として知られるようになった。

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彼女の運命は特殊である。しかしどんな事件も、他人事だと片付けられないのではないだろうか。この事件が投げかけたテーマは、「尊属罪の違憲」問題だけではなかったように思うのは私だけだろうか。（オフィスエムツー／真鍋しまこ）

■参考資料
・警察庁統計 平成18年の犯罪
　　　　　
■参考文献
・殺人百科データファイル
・明治・大正・昭和・平成事件・犯罪大事典

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・27歳、OL６人物語

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