「【生きもの異変　温暖化の足音】（１１）水温上昇　日本からサケ消える？」の記事詳細：イザ！

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　「サケが全然来ないんだよオ。少しだけ獲れても小さいのばっかりだ。いったいどこへ行っちゃったんだよオ」
　昨年１２月、青森県深浦町の漁師、山本光治さんは、西津軽の鈍（にび）色の空を見上げて嘆いた。
　川で生まれ、海へ降りたシロザケは３～５年、海で暮らして成魚になり、産卵のため生まれ故郷の母川へと帰る。サケ漁は、このときを狙う。
　深浦町周辺では例年、１０月上旬からサケ漁が始まり、１２月には漁の最盛期を迎える。だが、昨年のこの時点の漁獲量は、前年の３分の１以下で、獲れるのは５０～６０センチの“小物”ばかり。山本さんは「水温も高かったし、これが地球温暖化ってやつなのかねえ…」とつぶやいた。
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　平成１９年のシロザケ漁獲量は、サケ漁が行われている１１道県の大半で前年を割り込み、全体では前年比４・５％減の２０万１８２５トン。
　水産庁栽培養殖課では「１９年のサケ漁は、各地とも１、２カ月ぐらい始まる時期が遅く、漁獲量（重量）は前年よりやや減った。ただ、尾数は前年並み。１匹当たりの平均重量が同０・１４キロ減の３・２６キロと小型で、漁獲量が伸びなかった」と話す。
　その一方で、来遊数が年々、伸びている地域もある。北海道のオホーツク海沿岸だ。日本の最果てに位置する流氷の海である。
　北海道のサケ漁獲は、国内の８割以上を占める。道全体での平成１９年の漁獲高は、前年より少なかったが、５つの地域別にサケの来遊数をみると差が目立つ。
　昭和５７（１９８２）年以降、南寄りの「えりも以西」「えりも以東」「日本海」がほぼ横ばいであるのに対し、北寄りの「オホーツク海」と「根室」は、５７年の３～４倍に伸びているのだ。
　北海道庁水産林務部水産局では「オホーツク海周辺のサケ漁は、絶好調だが、道内の他地域や他県の様子からすると、漁場は年々、北上しているようだ」と話す。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　■
　日本のシロザケは孵化（ふか）後、川を下り、３～５年をベーリング海とアラスカ湾で暮らす。成熟すると産卵のためにオホーツク海を経て、１０月ごろから日本の母川へ戻ってくる。
　「昨年１０月、太平洋側は北海道南東部から岩手県まで、日本海側は北海道から石川県までのサケが通過する海域は２２度もの高水温で、このころ８～１２度が適水温のサケには高温すぎ、南下が遅れた」
　北海道大学大学院水産科学研究院の帰山（かえりやま）雅秀教授の説明だ。
　漁場の北上は、海水温上昇の影響が大きいようだ。気象庁によると日本沿岸の海面水温は、過去１００年で０・７～１・６度も上昇している。世界平均の１・４～３・２倍に当たる上昇だ。
　地球温暖化とサケの漁獲の変化について、帰山教授は慎重な見方をとっているが、今後も温暖化が進んだ場合は、「今世紀末までに、日本のサケは激減するでしょう」と予言する。
　帰山教授は、国連の「気候変動に関する政府間パネル（ＩＰＣＣ）」の地球温暖化シナリオのうち、今世紀末に世界の平均気温が２・４度上がるＳＲＥＳ－Ａ１Ｂに基づいてシミュレーションを行ったのだ。
　川を降ったサケが最初にオホーツク海に集まる７～１０月の水温は、現在のところ、生育に適した温度範囲内の８～１２度。だが、２０５０年には３～４度上昇するという結果が出た。
　これだと、オホーツク海の温度環境は、サケにとって高すぎる。ベーリング海やアラスカ湾へと回遊していくルートは遮断され、日本のサケは、北太平洋で成長できなくなってしまうのだ。
　長期的な視点に立てば、日本人が先史時代から親しんできたシロザケが絶滅危惧（きぐ）種になりかねない。漁期の始まりの遅れは、その予兆なのかもしれない。（伊藤壽一郎）
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　【用語説明】サケ
　サケ目サケ科サケ属の魚。通常、シロザケを指す。国内では北海道、青森、岩手、宮城、福島、茨城、秋田、山形、新潟、富山、石川の１１道県でサケ漁が行われている。

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