「＜生きもの異変　温暖化の足音＞（５）クマゼミ北上　２０年後、東京席巻」の記事詳細：イザ！

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　クマゼミは、日本最大のセミである。鳴き声も大きい。温暖な平地や低い山に生息する南方系のセミだが、近年は関東地方の太平洋側にも進出中だ。その定着を示す抜け殻が昨年８月、茨城県の取手市役所・藤代庁舎の敷地内で見つかった。

　「６年ほど前から市内で鳴き声は聞こえていたのですが…。決め手となる抜け殻なので、純粋にうれしかった」

　市教委職員の鈴木浩二さんは興奮を交えて発見を振り返る。

　環境省が１３年前に行った「抜け殻調査」では、大阪など関西での分布を示す報告が圧倒的に多かった。その一方、昔はいなかった東京の品川や大田などの区でも見つかった。その後、千葉や群馬など関東地方のあちこちで抜け殻が発見されるようになり、日本列島の北や東に分布が広がりつつあったのだ。

◇　「クマゼミの北上に、温暖化による気温上昇が関係していることは確か。冬越しの後押しをしているようです」

　大阪市立自然史博物館学芸員の初宿（しやけ）成彦さんはこう語る。大阪市立大学理学研究科の沼田英治教授とともに、クマゼミの生態解明に取り組んでいる研究者だ。

　研究チームは抜け殻の発見場所とその地域の気象データから、クマゼミの分布可能域を把握した。「平均気温で、８月は２５・１度以上、１月が３度以上の地域」だった。

　関東の茨城の一部も、その条件を満たしていた。

　沼田教授は「幼虫が暮らす土中の温度は変化が少ない。問題は地上で冬を越す卵のとき。クマゼミは低温に弱いとみられ、それが北限を決めているのかもしれない」と語る。

　鳴き声のボリュームは「騒々しい工場並み」といわれるクマゼミが大阪市で増加傾向にある。一昨年には、セミ採りの記憶を尋ねるアンケート調査を通して、その実態を確かめた。

　１９７０年代にはアブラゼミの回答が多かったが、８０年代前年になるとクマゼミが上回ったのだ。やはりクマゼミは増えていた。初宿さんは「大阪は冬の気温３度を下回る日が少なくなっている」と話す。

◇　このクマゼミが近年、大阪をはじめとする西日本で、夏場に予想外のトラブルを引き起こしている。大量発生した彼らが木の枝と間違え、光ファイバーケーブルに産卵管で穴を開けて卵を産みつけ、通信障害を引き起こすのだ。

　平成１７年と１８年とも各１０００件以上。ＮＴＴ西日本によると、少数の被害は平成１１年から起きていたが、統計を取り始めたのは１７年からであるという。

　クマゼミの東進北上や都市での増加には、温暖化以外の要因も関係している。沼田教授によるとヒートアイランド現象による都市部の気温上昇に伴う乾燥化も大きい。

　「クマゼミの幼虫は、他種のセミに比べて、乾燥して固くなった土でも容易に潜れることが判明しました」

　他種のセミの幼虫は地面で手間取っているうちに、アリなどに食べられる可能性が高くなる。その結果、クマゼミが優勢になっていることも考えられるのだ。

　２人は一連の研究を総合し、大胆な仮説を提唱する。「２０３０年ごろには、東京でクマゼミが大阪並みに増え、アブラゼミ中心の東京のセミ勢力図を塗り替える」というものだ。

　現在の東京の気温は、７０年代の大阪よりも高く、繁殖できる環境はすでに整っているという。

　増加が始まった８０年代の大阪と現在の東京を並べれば、間もなく都心の緑地帯がクマゼミだらけになる可能性もあるわけだ。クマゼミの幼虫は、移植樹木の根の土に混入しても運ばれる。

　ＮＴＴ東日本によると横浜でも昨年８月、クマゼミによる光ファイバーの被害が生じた。（神庭芳久）

◇【用語解説】クマゼミ
　７月上旬から９月上旬にかけて発生する。成虫の体長は６～６・５センチにも達し、この大きさと、つやのある黒色の体から「クマ」の名がついた。オスは腹を縦に激しく振りながら「シャアシャア」と大きな声で鳴く。この鳴き声で、存在がわかる。

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