「本当にこれで介護難民は出ないのか」、「この単位数で新しい老健に必要な経費が担保されるのか疑問だ」―。2008年度に創設する療養病床から転換する老人介護保険施設(介護療養型老健)の単位数が3月3日、厚生労働省から社会保障審議会介護給付費分科会(座長=大森彌・東京大学名誉教授)に示された。医師などの人件費を抑えることで、介護療養型老健の月額の基本施設サービス費や入所者の自己負担額を介護療養病床と既存の老健の中間に落とし込んだ格好だ。しかし、単位数設定が低いためにサービスの質の確保や運営維持について委員からは不安を訴える声が相次いだ。
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厚労省は同日、介護療養型老健の介護報酬の単位数の詳細を示した。厚労省の試算では、要介護5の利用者が多床室に入所し、介護職員4:1配置として基本施設サービス費だけを見た場合、月額33万4,000円となり、既存の老健を2万5,800円上回る。介護療養病床は38万1,000円となるため、介護療養型老健は療養病床と既存の老健の中間の額になる。入所者の自己負担も、療養病床は8万9,800円、介護療養型老健は8万5,100円、既存の老健は8万2,500円と試算した。
同日の分科会で、勝田登志子委員(認知症の人と家族の会副代表理事)は「この要件を満たして(介護療養型老健を)やった場合は生き地獄になるのではないか。特にサテライトや小さなところは本体があったとしてもお医者さんがいない、看護師さんもオンコールという中でこの金額で本当に選んでもらえるのか。本当に介護難民は出ないのか」と疑問視した。木下毅委員(日本療養病床協会会長)も、「今日示された単位数で必要経費が担保されるのか。転換老健を維持できるのか疑問だ」と述べた。
日本看護協会の小川忍常任理事は、介護療養型老健の施設要件に選択肢として「経管栄養か喀痰(かくたん)吸引を必要とする入所者が15%以上いること」とする項目が盛り込まれたことについて、「これをクリアするために(入所者に)経管栄養や喀痰吸引をするようになっては本末転倒」と、現場のモラルハザードを懸念した。その上で、経管栄養などが必要なくなることに対して評価する仕組みを設けるべきと提案した。
厚労省はこれに対し、「経口移行加算」や「経口維持加算」に対する評価がすでにあるほか、介護療養型老健では「摂食機能療法加算」も設定するなど、入所者を経管栄養から経口の体制にするインセンティブを設けている点を強調した。
川合秀治委員(全国老人保健施設協会会長)は、介護療養型老健のみに入所施設内でみとった場合に最大で7万2,000円のターミナルケア加算が認められたことに対して「我々が今まで善意でやってきたことがゼロになるのか」と不満をあらわにした。
■国民負担は結局プラスかマイナスか?
沖藤典子委員(作家)は、医療保険適用と介護保険適用の療養病床が、介護保険適用の介護療養型老健に転換していくことについて「プラスマイナス全体で国民の負担はどうなるのか」と、今後の費用面での見通しを求めた。勝田委員も「医療費の削減効果が試算で出ているはず。計算していないというのは国としてありえない」と、試算を示すよう強く求めた。
厚労省は、「(今後転換する)療養病床数に依拠している。都道府県の計画によるので現時点では推計できない」と、都道府県が年度末をめどに作成する地域ケア整備構想が集まらなければ療養病床に転換する全体のベッド数が分からないため、現時点で医療費がどうなるかの見通しを示すことはできないとした。
山本文男委員(全国町村会会長)からも保険者の負担増を懸念する意見が挙がった。これに対し、阿曽沼慎司老健局長は「この問題は複雑。都道府県の負担の問題、保険者にとって保険料がどうなるかという問題、全体の社会保障給付費がどうなるかという問題がある」と答えた上で、まずは転換を考える医療機関が参考にできるように介護報酬の単位数を示したと述べた。
天本宏委員(日本医師会常任理事)は、「お金の話ばかりしているが、重要なのは後期高齢者で医療を継続する人がどうなるかが一番重要。これから対象者は増える。単価が減ることで安くなって喜んでもらっても医者は減る。それでいいのか」と声を荒げ、今回の制度が、国民の抱える医療・介護ニーズへの対応に逆行していると訴えた。介護労働者が集まらない現状も指摘し、国として対策を立てるべきと要望した。木下委員も、「結果的にどういうサービスができるのかという話が出ていない。医療や介護の質が落ちたのでは意味がない。今後それを検証することが重要。お金の話ではない」と、サービスの質の確保に対する今後の取り組みを求めた。
更新:2008/03/04 17:09 キャリアブレイン
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