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2008年3月5日

◎北陸新幹線の延伸 「福井まで」も一つの選択肢

 北陸新幹線の建設計画見直しをめぐり、与党の一部で新規着工区間を金沢―敦賀ではな く福井までに短縮する案が浮上しているが、それも一つの選択肢ではないか。延伸の財源としてJRから国が受け取る新幹線施設の貸付料を「前借り」するにしても、さらに根元受益分が上乗せされるにしても、使えるお金が限られていることにかわりはないのだから、同時着工にこだわらず、まずそれを福井までの工事に集中投入して早く効果を出すという発想があっていい。

 北陸新幹線建設促進同盟会の試算によると、福井までレールがつながれば、金沢―福井 の所要時間が現在の約五十分から約二十分に、富山―福井は約一時間半から約三十五分に短縮される。そうなれば、北陸新幹線は名実ともに北陸三県を結ぶ大動脈として機能することになり、都市間交流がより一層、拡大すると期待される。

 ただ、東京までの時間短縮効果を見てみると、金沢あたりまでは整備すれば整備するほ ど効果が大きくなるのに対して、それ以西は徐々に小さくなる。これらを考慮すれば、福井―敦賀を後回しにしても、福井までの整備を急ぐという案は合理的であると言えよう。

 延伸に充てる財源を確保するための政府・与党とJRの協議は難航しており、当初の目 標であった年度内決着は既に難しくなっている。そうした「財源難」を背景に、与党内では、北陸、北海道、九州の三路線の未着工区間に優先順位を付けて整備を進めなければならないとの意見も出ている。北陸新幹線では、先行整備している福井駅部が新年度に完成する予定になっており、金沢―福井については真っ先に着工するよう求める根拠は十分にあるが、譲れるところでは他路線に譲ることも必要になってくるだろう。

 また、仮に整備新幹線事業全体に優先順位を付けるとすれば、延伸よりさらに優先され るべきなのは、既着工区間の早期完成であることは言うまでもない。延伸によって、二〇一四年度末とされている金沢開業が遅れるということだけは間違ってもあってはならない。政府・与党にはあらためてこのことを念押しするとともに、開業時期を可能な限り早める努力も求めておきたい。

◎次期ロ大統領確定 消せぬ異質な大国の印象

 プーチン大統領の下で大国の自信を取り戻したロシアは、欧米や日本などと基本的な価 値観を共有するとされながらも、やはり「異質な大国」と言わざるを得ない面がある。次期大統領に選ばれたメドベージェフ氏は強権的なイメージがなく、自由経済を信奉する人物といわれるが、プーチン大統領の路線継続をうたっている。日本としては、国家資本主義による大国化などと言われるロシアの本質をしっかり見極めて対ロ外交戦略を練る必要があると思われる。

 冷戦後の新生ロシアは自由、民主主義、市場主義経済という価値観を選択し、パートナ ーシップを築く基盤ができた、というのが日本政府の基本的な認識である。しかし、現在のロシアはこの価値観にそぐわない面が多々見受けられる。例えば、ロシアの民主主義は個人の自由よりも国家の主権を優先する「主権民主主義」と評され、実際、言論の自由は抑圧されている。

 市場経済国の仲間入りをしたといっても、エネルギーなどの基幹産業は国家が管理し、 自国に都合が悪くなると、国家権力で外国企業から経営権を奪い、近隣国へのガス供給の停止もいとわない。国家権力の経営介入は、サハリンでの天然ガス開発で日本企業も経験している。

 冷戦後のロシア国民には、西側の価値観を押しつけられ、混乱したという一種の被害者 意識もあるようだ。そのことが、欧米と一線を画して国家を再生したプーチン大統領の人気につながっているが、市場主義とは言い切れない経済社会の特異性が、いまもってロシアの世界貿易機関(WTO)加盟が実現しない一因になっているのではないか。

 メドベージェフ氏は「国家資本主義は二十一世紀には不可能だ。市民社会を強化し、法 治国家を確立する」などと述べており、ロシアに変化をもたらす可能性も感じさせる。大いにそれを期待するが、プーチン氏の影響力が強い中で独自性を発揮するのは難しいとみられる。

 日ロ間の貿易規模は拡大してきたとはいえ、まだ日中、日米間の十五分の一に過ぎない 。日本企業の進出を含め日ロの経済交流を活発にするためには、経済の国家主義的な体質を改めていく必要があろう。


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