海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故発生から二週間たった。事故後の対応をめぐって防衛省の情報開示は混迷を極めており、危機管理体制が厳しく問われている。
衝突事故の原因については、第三管区海上保安本部が業務上過失往来危険容疑などで捜査を進めている。これまでにあたごの当直士官の判断ミス、見張りやレーダーによる監視の不十分さなどが明らかになり、初歩的なミスの連鎖が事故につながった可能性が高まっている。危機感の希薄さには驚くばかりだ。
防衛省に対する不信感がさらに高まったのが、情報開示の問題である。あたごの乗組員が漁船に気付いたのは、衝突の「二分前」ではなく、「十二分前」だったという事実を、防衛省は事故翌日の夕方まで公表しなかった。事故当日の夜には新たな情報を得ていたにもかかわらずだ。
事故当日に海上保安庁の事前了解を得ず、あたごの航海長をヘリコプターで防衛省に呼びつけ、石破茂防衛相や幹部が事情を聴いていたことも分かった。吉川栄治海上幕僚長は会見で「海保の了承を得た」と述べたが、海保側が反論した。防衛省側の虚偽説明に、石破氏も国会で「了解を得ないで聴取したことは必ずしも適切でなかった」と頭を下げた。
事情聴取に立ち会った増田好平防衛事務次官も発言の訂正を重ねた。当初、聴取内容の記録は「ない」と断言していたが、翌日には発言を翻して存在を認めた。
事故発生後、防衛省は断片的な情報を小出しに公表しては説明内容を次々と変え、混乱を招いてきた。石破防衛相の責任は大きいと言わざるを得ない。その迷走ぶりからは“情報隠し”の体質が透けて見えるようだ。都合の悪い情報は意図的に伏せているのではないかと疑われても仕方あるまい。
情報の伝達は組織の命綱だ。国民の命と財産を守る危機管理官庁として、防衛省のシビリアンコントロール(文民統制)は本当に機能しているのだろうか。組織全体にどこか構造的な欠陥があるとしか思えない。閉鎖的な組織の体質改善が急務といえよう。
事故直後には情報の遅れが非難された。石破防衛相に一報が届いたのは約一時間半後だったが、石破氏の登庁はそれからさらに一時間半が過ぎてからだ。初動対応の遅れは言い逃れできまい。石破氏は情報操作や隠ぺいがあった場合は責任を取る考えを示している。信頼回復のためには、福田康夫首相自らが先頭に立つ気構えが必要ではないか。
プーチン大統領の任期満了に伴うロシア大統領選で、プーチン氏が後継指名したメドベージェフ第一副首相が他の三候補に圧勝した。五月にロシアの第三代大統領に就任する。
プーチン路線の継承を掲げるメドベージェフ氏の大勝は予想されていた。ソ連崩壊後、社会や経済の混乱が続く中、二期八年間の在任中に石油など豊富な天然資源を背景に国家安定と経済繁栄をもたらしたプーチン氏に対する国民の人気は高く、それを反映した結果といえる。
選挙はメドベージェフ氏が政権基盤を固めるため、どこまで票を伸ばすかが焦点になった。得票率はプーチン氏が二〇〇四年の再選時に得た約71%と同レベルになり、安堵(あんど)しているのではないか。
プーチン氏は連続三選を禁じた憲法に従い五月に大統領を退任後、首相として権力を握るとみられる。いわゆる「院政」を敷くようだ。
ロシアの首相は大統領が任命し、ナンバー2として政府を統括する。メドベージェフ氏はプーチン氏を首相にする考えを示す。プーチン氏は大統領を辞めて格下の首相になっても実質的に政権を支配する思惑だろうが、選挙を巧みに利用した権力継承との批判はつきまとうだろう。
今後はロシア史上異例の「二頭体制」に移行することになる。メドベージェフ氏は「強いロシア」を目指すプーチン路線を変えるつもりはなかろうが、エネルギー輸出に依存した産業構造の変革をはじめ、経済の急成長に伴う貧富の格差是正などへの対応が迫られている。
主導権をめぐって二重権力に陥る危険性が高いという指摘は多い。権力構造の不安定化を招きかねない二頭体制の行方は予断を許さない。
(2008年3月4日掲載)