薬害エイズ事件で元厚生省課長の上告棄却を受けた会見中、拳を握りながら発言する川田龍平参院議員=東京・霞が関の司法クラブで2008年3月4日午後6時15分、小出洋平撮影 |
薬害エイズ事件で、多くの患者から命や希望を奪った「官僚の怠慢」を最高裁も有罪と断じた。元厚生省生物製剤課長、松村明仁被告(66)に対する上告棄却決定。人生を翻弄(ほんろう)された患者たちは4日「当然だ」「国は反省を」などと口々に語った。
「薬害で厚生官僚の有罪が確定するのは初めてで画期的だ」。東京HIV訴訟原告だった川田龍平参院議員(32)は決定を評価し「これをきっかけに、隠ぺいと無責任を繰り返してきた働きぶりが変わると思いたい」と話した。
松村被告への思いを「自分の責任を受け入れ、心からの謝罪の言葉を聞きたい」と吐露し「彼だけの問題ではなく、前任者や上司の責任も追及されないといけない。真相はまだ解明されていない」と訴えた。
東日本に住む30代半ばの血友病患者の男性も「有罪は当然。厚生労働省の全員が反省してほしい」と言う。86年に足の手術で非加熱血液製剤を投与されHIVに感染。結婚した妹に配慮して実名は公表できない。好きな女性へのプロポーズも、のみ込んできた。
目に焼き付いて離れない場面がある。85年8月、不凍液入りワインを回収したのに、非加熱製剤は放置した松村被告が言い放った。「ワインは一般国民が飲むが(血液)凝固因子(非加熱製剤)の使用者は限られている」。当時高校生だった男性は「僕らは虫けらなのか」と怒りを覚えた。
免疫力が下がり、3月末ついにエイズ発症を抑える薬を服用することになった。肝臓に負担がかかり、非加熱製剤でC型肝炎にも感染した男性は副作用におびえる。「製剤を回収していれば感染しなかったかも」。薬害エイズ事件の刑事裁判が終わっても、この思いが消えることはない。
松村被告の有罪が確定するのは、86年の肝臓病患者への非加熱製剤投与。大阪府内に住む被害者の妻は「昨年夫の十三回忌を済ませたが、やっと良い報告ができた」と喜んだ。その上で「薬害根絶の思いで告訴に踏み切ったが、その後も続く薬害が悔やまれる。これを機に厚労省はいま一度主人の無念の思いを心に刻んでほしい。被告は国民の生命を守れなかったことを真摯(しんし)に受け止めてほしい」と話した。【北村和巳、小林直、高倉友彰】
◇故草伏さんの母「少し区切りが」
薬害エイズの惨禍を訴え96年10月に亡くなった東京HIV訴訟原告、草伏村生さん(ペンネーム、当時44歳)の母(78)=大分市在住=は「有罪確定で少し区切りがついた。ほっとしている。息子は『薬害の真相究明を』と言い続けて他界したが、薬害肝炎でも薬害を生じさせた役人個人の責任はあいまいなまま。異動や退職でうやむやにせず、公務員もきちんと責任をとらないと、同じような被害が繰り返されてしまう」と話した。
◇菅民主代表代行「本質的改革を」
松村明仁被告の上告棄却について、薬害エイズ問題を厚相(当時)の立場で追及した民主党の菅直人代表代行は「松村被告本人にも責任があるが、厚生労働省は薬事行政全体の構造的な責任として受け止めるべきだ。当時の反省があるはずなのに、薬害肝炎問題をみても反省が生かされていないことが大変深刻な問題だ。本質的な改革をしていかないといけない」と語った。
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