更新:3月4日 10:40ビジネス:最新ニュース携帯3社の株価を「普及曲線」で読み解く・勝間和代
2月27日、携帯電話最大手のNTTドコモがこれまで禁じ手としていた「家族間無料通話」の導入を発表した。そうした状況を受けた08年2月末時点のドコモの株価は15.6万円で、時価総額は7兆655億円である。(勝間和代のITマーケットウォッチ) 一方、00年のドコモの株価は88.6万円(分割換算後)、時価総額も30兆円を軽く超えていた。このように、最盛期の株価の5分の1になるまで下落したのは、ドコモの経営が何か間違っていたのだろうか? あるいは、昔のドコモのマネジメントが優秀で今のマネジメントに失策があったのだろうか?
その答えを見つけるため、ライバル会社の株価を見てみよう。KDDIの株価は07年6月、ほんの9カ月前に100万円を超える高値をつけていたのに、3月3日の終値時点では63万円しかない。ソフトバンクも06年1月の5000円(分割換算後)をピークに現在は2050円となっている。その他の通信株も、対TOPIX(東証株価指数)の相対パフォーマンスを比較しても、大きく下落しているのである。 この数年間に起きた変化は、実はたった1つの法則で説明できる。それは「普及曲線」の変化である。技術を中心としたイノベーションは、一般的には下記のような曲線をたどる (出所:「イノベーションの普及」、エベレット・ロジャーズ著)。 最初はイノベーター、そしてオピニオンリーダーが利用し、キャズムと言われる普及率16%を超え出すと爆発的に普及が始まり、普及率がおおむね50%を超えたあたりで急激に減速し、最後の16%はごくゆっくりとしか普及しないのである。 これを携帯電話で検証してみると、下記のようになる。 すなわち、現在はすでに「レイトマジョリティ」への普及が終わり、「ラガード」の域に達しているのである。それは通信会社がなんと言おうと、これ以上の契約数が伸びにくいことを示している。 ちなみに、携帯電話以外の製品では、以下のような状況である。 そして、契約数や台数が伸びにくい業界で何が起きるのか。当然、シェアの奪い合いであり、価格競争になる。 したがって、株価は「普及率が16%を少し超えたくらいの業界の株は過小評価され、その後普及率が50%前後で株価がピークとなり、以降は妥当な評価になるまで株価は下落する」という流れになることが多い。 例えば、先ほどの携帯電話の普及率に、ドコモの株価を重ね合わせてみると、次のようになる。 この法則は特に業界シェアトップの会社に当てはまる。そして、2番手、3番手の追随者にとってはやや遅れて、同じことが起きる。 KDDIは2番手ならではの市場、例えばドコモに不満を持つユーザーをどんどん移行させ切った後は、顧客を増やす余地が小さくなり、またソフトバンクとの価格競争も激化して、株価がタイムラグをもって下落する。 顧客単価を増やせば企業価値や株価の下落は防げると考えるマネジメントも多いが、例えはドコモが新規顧客を獲得した場合には基本料金と通話料で合わせて4000―5000円の料金を取ることは難しくないが、既存顧客にiモードやおサイフケータイだけで、既存の料金に加えてさらに4000―5000円を獲得するのは至難の業である。 したがって、どんなにマネジメントが優れていても、普及曲線の脅威には勝てない。逆に、「アーリーマジョリティ」への普及段階では、そこそこのマネジメントであれば、株価はどんどん上がる。 とはいえ、普及が終わった業界に活路がないのかというとそんなことはない。顧客の解約率を低め、事業を効率化することで製造原価や販売原価を引き下げていき、原価低減のスピードに合わせて顧客単価を引き下げながら、新規事業者がちょっとやそっとでは参入できないような事業構造にしてしまえばいいのである。 ただ、通信業界の問題点は、そういった原価低減の努力が不十分のまま、あまりもうからない新規事業や安易な値下げに走ったことであり、その点は普及期をとっくに過ぎた今も原価低減の努力により日本だけではなく世界市場に活路を求めている自動車や他の業界の仕組みを見習うべきだろう。 また、同じことが通信だけではなく今後インターネット、特にブロードバンド・インターネットにも起こってくるため、IT業界はさらなる生産性の向上と原価低減が不可欠である。それを実現できた事業体が成熟期の勝者になることができると考える。 [2008年3月4日] ● 関連リンク● 記事一覧
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