薬害エイズ事件で業務上過失致死罪に問われた厚生省(現厚生労働省)の元生物製剤課長・松村明仁被告(66)の上告審で、最高裁第2小法廷は、松村被告の上告を棄却する決定をした。
古田佑紀裁判長は「被告はエイズ対策の中心的な立場にあり、薬事行政上、必要かつ十分な対応を図る義務があった」と述べた。決定は3日付。松村被告を禁固1年、執行猶予2年とした1、2審判決が確定する。
行政がやるべきことをやらなかった「不作為」について、官僚個人の刑事責任が最高裁で確定するのは初めて。これにより、「産・官・医」の刑事責任が問われた同事件は終結する。
決定はまず、薬害発生の防止について、「第一次的には製薬会社や医師の責任で、国の監督権限は第二次的なものであり、行政の不作為が直ちに公務員個人の刑事責任を生じさせるものではない」と、指摘した。
しかし、<1>非加熱製剤でエイズウイルス(HIV)に感染し、多数の者が死に至る可能性が高いことが予想されていた<2>国が明確な方針を示さなければ、安易な販売や使用が続けられる恐れがあった−−ような状況下では、「薬事行政の担当者には薬品による危害発生を防止する注意義務が生じる」と判断。さらに、この防止措置には、薬品の回収命令など薬事法に基づく強制権限だけではなく、行政指導といった任意の措置も含まれるとした。
その上で、松村被告について、「他の部局と協議して必要な措置を促すことを含め、十分な対応を図る義務があった」と述べた。
松村被告は、1985年5〜6月に非加熱製剤を投与された帝京大病院の血友病患者と、86年4月に大阪府内の病院で同製剤を投与された肝臓病患者が死亡した2事件で起訴された。1、2審は、帝京大の事件で無罪、肝臓病患者の事件で有罪としていた。
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