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医師が危ない
第2部・過酷な現場C
2008年03月03日付・夕刊

 (11)誰も彼も忙しい

巨大な顕微鏡を使う脳外科の手術。モニターが術野を映し出す(高知市池、高知医療センター)  「たった二日で僕らの忙しさが分かられたら困るよね。何カ月も見てもらわんと」

 高知医療センター脳神経外科の溝渕雅之医師(48)は、院内の行く先々で私を紹介するたび、そう言って相手を笑わせた。

 私はほとんど毎日、通い詰めた。すると、激務は彼だけでなく、脳外科の六人全員が同じ状況にあることはすぐに分かった。

 三日目、木曜日から翌日にかけての各医師の動きはこうだった。

 木曜の午前中が救急車当番だった岡田憲二医師(36)は、脳出血、軽傷の脳梗塞(こうそく)、動脈瘤(りゅう)破裂によるくも膜下出血と立て続けに対応。動脈瘤は再破裂の恐れがあるため、そのまま午後から緊急手術に。溝渕医師と二人で入り、夜中までかかった。

 岡田医師が帰宅したのは日付の変わった金曜午前一時。翌朝は一般外来診察が昼すぎまであり、その後、主治医だった病棟の患者の容体が悪化。夜中に亡くなり、「お見送り」した後、書類を書き、帰ったのは土曜の朝だった。

 岡田医師の動脈瘤手術を手伝った溝渕医師はその後、患者から催促のあった裁判用の意見書を仕上げ、帰宅したのは金曜の午前三時半。

 福田真紀医師は木曜の昼間、血管造影検査を済ませた後、午後九時まで、動脈瘤手術の器械出しを手術室で手伝った。本来は看護師の仕事だが、人手がない時は医師がする。その後、転院患者の紹介状を書き、病棟回診。帰宅は午前零時前だった。

 自治医大卒でへき地の診療所勤めを十二年間し、平成十九年春、脳外科に来た石井隆之医師(37)は、木曜夜から当直で救急車対応。午後八時すぎに急患が入り始める一方、病棟の自分の患者の急変もあり、朝の三時まで立ちっぱなし。一時間半ほど仮眠して五時、七時にも呼ばれた。金曜は県西部の民間病院で丸一日の出張外来。「往復のタクシーの中は“意識不明”になってました」

 脳外科の指揮官、森本雅徳部長(56)もハードだった。木曜は動脈瘤手術が終わるまで見守り、金曜の午前一時に帰宅。翌朝はカンファレンスがあるため八時に来院。続いて一般外来診察。その後、会議が入り、病棟回診ができたのは夜だった。

 そしてもう一人、初めて会う先生がいた。血管内手術の専門家、福井直樹医師(39)。日曜まで夏休みで家族旅行中のはずだったが、金曜夕方にはもう顔を出していた。「変に休みをもらうと、リズムが狂って体調崩すんですよ。週明けに三人、入院があるんで指示を出しておかないと」

  ◇  ◇

 誰も彼もが慢性的な睡眠不足。「このままだと脳外科は皆、倒れる」。取材を始める前に溝渕医師が言っていた言葉は大げさではなさそうだ。

 金曜の午後十一時すぎ。電子カルテの指示を出し終えた森本部長が「今日は早く帰らせてもらいます」と立ち上がった。

 駐車場に向かう姿を追って「大変ですね」と話し掛けると、「まだ、ましな方です。寒い季節になると、本当に大変になりますから」。

 しかし、予言は外れた。修羅場はすぐにやってきた。

 【写真】巨大な顕微鏡を使う脳外科の手術。モニターが術野を映し出す(高知市池、高知医療センター)

 ◇…………………◇

 感想、意見をお寄せください。電話番号を添えて手紙は〒780-8572 高知市本町3-2-15、「医師が危ない」担当へ。メールはeiin@kochinews.co.jp

 
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