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医師が危ない
第2部・過酷な現場C
2008年03月01日付・夕刊

 (10)当直明けも延々

県民の命の砦(とりで)高知医療センター。屋上には巨大ヘリポート(高知市池)  高知医療センター取材の二日目は午前七時半、仮眠室で寝ているところを、脳外科の溝渕雅之医師(48)からのPHSで起こされた。

 彼の目は充血していた。昨夜、新たに来た急患は幸い脳卒中ではなかった。変性疾患か薬の副作用による激しい頭痛だろうということで落着。その後、別の当直医が診ていた患者の相談に乗り、仮眠したのは五時前だった。

 だが、その後も、夜中に手術した患者の容体悪化で二度、救急ICUから電話で起こされたそうだ。

 朝食を買うため一階のコンビニに入った。頭はもうろう、食欲なし。何を買えばいいのか思い付かない。彼を見ていると、ゼリー飲料とパンを手に取った。「朝はこういうのしか胃が受け付けんのよ」。疲れているため、言葉がぶっきらぼうだ。

 二階医局のソファで食べながら、彼は黙々と新聞に目を通した。こちらは、恥ずかしながら見る気力すらわかない。

 十分後、朝のカンファレンス(症例検討会)に出て、九時からは手術の手伝い。午後二時すぎまで立ちっぱなしだった。

 当直明けだが帰る気配は全くない。

 「まだ、病棟の患者さんを診てないし」

 昼食を買うためエレベーターに乗ろうとして、ドアが開くと、前夜の緊急手術患者がベッドに乗ったまま中から出てきた。一階で術後のCT撮影をしていたという。

 「あ、この人を診てあげないと!」。そう言って患者を追い掛け、救急ICUへ逆戻りした。

 壁際でぼんやり待っていると、「昨日はお疲れさまー」と福田真紀医師が現れた。午前一時半に帰宅したが、七時前に院内ICU(入院中に重篤化した患者の集中治療室)から「患者さんの管が抜けた」と電話で起こされ、そのまま九時から溝渕医師とともに手術だったという。やはり寝不足。電子カルテを打ち、どこかへ消えた。

 午後三時、ようやく一階のコンビニに入った。

 「僕はここでしばらく立ち尽くしてしまうんだ。ここの弁当を毎日食べて二年半やからなあ」と溝渕医師。

 医局のソファで新聞を読みながら、焼き飯を十分で食べると病棟回診へ。具合を聞き、容体の変化や薬の指示を電子カルテに打ち込んだ。

 回診はすぐ終わるものかと思っていたが、意外と時間がかかった。翌日からの食事内容の変更を患者に伝えると、「今まで通りの食事がいい」と言われて指示の出し直し。入院費用に困った患者の相談もあったようだし、途中で救急外来からの呼び出しも。終わったのは午後七時半。だが、まだ帰れない。退院予定の患者の紹介状を二人分、仕上げるという。

 「一人一時間はかかるからねえ。一時間まとめて取れるのは、夜しかない。晩飯を食べてからが勝負です」

 連続勤務は既に三十六時間近い。溝渕医師には申し訳ないが、いったん引き揚げないと、こちらは体が持ちそうにない。

 別れを告げて一階に下りると、吹き抜けのある広いロビーは高級ホテルの装い。オープンカフェも併設。クラシック音楽が流れ、空気がゆったりしている。

 「これが同じ建物の中なのか」。壁一枚隔てただけで違う世界の落差に強い違和感を覚えた。

 【写真】県民の命の砦(とりで)高知医療センター。屋上には巨大ヘリポート(高知市池)

 
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