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2008年02月29日付・夕刊
(9)心の中に時限爆弾一週間に三件の夜中の緊急手術。高知医療センター脳外科、福田真紀医師の思い出話に、「大変ですね」と反応すると、溝渕雅之医師(48)が「ここでは普通です。夜中の三時に帰ってシャワー浴びて、八時半ぐらいに『参ったなあ』と言いながら、ふらふら出てくる。それが開院以来ずっと。先週の夜中も激しかったから」。 木曜日の午前三時半に脳出血の緊急オペ。金曜日も脳出血を続けて二つ。土曜日は午前零時すぎに脳底動脈閉塞(へいそく)の緊急血管内手術に入り、明け方までかかった。昼間も通常勤務で火、水、木曜と予定手術があった。 福田医師は高校時代、バスケットボールで鍛えた長身だが、医療センターへ来て、たちまち五キロやせた。夜中に帰宅して遅い夕食を取っても、体が受け付けなかったという。自分の時間が全くなくなったそうだ。 逃げ出したくないのだろうか。 「できるものなら。皆、心に時限爆弾を抱えてやってると思いますよ」 冗談めかした口調で話しているとサイレンの音。スタッフが玄関へ動いた。 救急車から降ろされた患者は既に呼吸を助けるための気管挿管をされ、意識なし。「ピッピッピッピ」。脈拍を刻む電子音が処置室に広がる。空気が一気に緊張し、看護師らが足早に動く。採血した試験管を持って、「脈拍九〇、血圧一九六の八四」。挿管口にチューブをつなぎ替え、酸素を投与する。 「CT見せて」「ドレナージ(廃液チューブ)二本入れて、今日はそれで逃げるか」と溝渕医師。 脳動脈瘤(りゅう)破裂によるくも膜下出血。発症六時間以内は再破裂が起きやすいため、取りあえず血圧を下げ、脳室ドレナージという応急手術でしのぐのだ。 「脳室に血が流れ込んで水頭症になり、頭がぱんぱんに腫れてるんですよ。このままだと、脳脊髄(せきずい)液がどんどんたまって中から脳を圧迫し、呼吸も止まる。頭蓋(ずがい)骨に小さな穴を開けて、チューブで血腫を抜いてあげないと」 その後、ICU(集中治療室)で人工呼吸器を付けて様子を見、意識レベルが上がってくれば本番の動脈瘤手術に入る。時間がたちすぎて再破裂すると、半分は即死だそうだ。 到着から十五分後にはMRI撮影に入り、五分後には電子画像が出て、動脈瘤の場所と大きさが判明した。最新機器の威力はすごい。 患者をICUに運ぶと、隣の手術室の明かりがついた。待機当番の看護師が呼ばれ、半時間後には手術開始という。 溝渕医師は家族に病状の説明を始めていた。その間に福田医師が手術や麻酔の同意書をパソコンで打ち出す。それに家族が署名。患者はベッドごと手術室へ。バリカンで髪の毛を刈り、消毒液を塗る。「お願いしまーす」の小さなあいさつで午前零時前、手術は始まった。 ◇ ◇ 「お疲れさまー」。午前一時すぎ、小声で福田医師がICUを去り、帰途に就いた。溝渕医師は手術の内容、入院診療計画書、急変時の指示を電子カルテに打ち込んでいる。 「これが結構、手間掛かるんよ。あと半時間やなあ」とつぶやいていると、「ピルルル」とPHSのけたたましい音。 「はいー。詰まってる!? 瘤(こぶ)がある。あと三十分? 分かりました」 新たな救急車の連絡だ。キーボードを打つ音が激しくなった。 【写真】急患に対応するスタッフ(高知市池、高知医療センター) |
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