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医師が危ない
第2部・過酷な現場@
2008年02月27日付・夕刊

 (7)すべて見せましょう

街中を急ぐ救急車(高知市内)  高知医療センター(高知市池)の堀見忠司病院長(62)を訪ねたのは昨夏の終わりだった。

 取材の申し入れに応じてくれるかどうか、少し不安もあった。というのは、自分の病院で働く医師の時間外労働が月二百時間。これは、国の過労死認定基準の一つ「八十時間」をはるかに超える。救命というやむを得ぬ事情もあるが、病院としてはあまり公にしたくない話でもあるだろう。

 ただ、医師が自分の身を削り、家庭を犠牲にして救命に当たっている現実に目をつぶったままでいいものか。脳神経外科は今、日本で最も成り手が少ない科の一つといわれる。気が付いた時には医師が枯渇していた、という事態になれば、それこそ大問題だ。

 取材の意図を説明すると堀見院長はため息交じりにうなずいた。

 「溝渕先生(第一部で登場した脳外科の溝渕雅之医師)は確かに熱心なドクターです。彼の言葉を額面通りに取ってもらっても構いません。救急外来もやり、脳脊髄(せきずい)液減少症という難しい病気の外来も抱え、本当にパニックになるぐらい追い込まれていた、というのはありましたから」

 医師が疲弊しているという。その原因は第一部で書いた通り、“防波堤”だった高知県立安芸病院を中心とした県東部の病院の脳外科が衰退し、ヘリ搬送も予想以上に来る。さらに「ウオークイン」と呼ばれる、救急車を使わず自分で来る軽症患者も少なくないことなどにある。

 「皆がしんどいというわけではないんですが、脳外科だけでなく、いろんな科が大変になっているんです。今のここの救命救急センターは、二次(入院や手術が必要)、三次(重篤)救急のはず。ところが、ガーゼ交換をしてほしい、というような患者さんが夜間に来て呼び出されたら皆、疲れますわねえ」

 にもかかわらず、患者からは「専門の医師に診てほしい」「待ち時間が長い」といった不満が出る。

 「自分の専門外の患者さんを診るストレスは、ただでさえ大きいんです。今は医療ミスに限らず、どんなささいなことでも、とんでもない方向に走りかねない。医師は余計に『救急はやりたくない』となるわけです」

 脳や心疾患の疑いがある場合は特に緊張度が高い。

 「患者さんが帰宅後に急変でもすれば大変ですから。だから皆、急変の可能性が否定できない救急患者を診ることに、ものすごく疲れてるんです」

 そういう現場の一部始終を見てみたいと伝えると、堀見院長はうなずいた。

 「ええ! ぜひ、見られた方がいい。実は現場からも『世間に実情を知ってほしい』という突き上げがあったばかりなんです。この病院は透明性が必要。ここで起きていることを、正直に伝えてもらうことも大切です。それが結果的に、県民に安心していただける病院になることにつながる。そのためにも、すべてをお見せしましょう」

 そのオープンな姿勢が、抱える悩みの深さを物語っているようでもあった。

 【写真】街中を急ぐ救急車(高知市内)

 
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