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医師が危ない
第1部・残業200時間の世界
2008年02月08日付・夕刊

 (5)想像超すヘリパワー

県消防防災ヘリ「りょうま」の救急患者搬送先  高知医療センターの負担増に拍車を掛けたのは、ヘリコプターだった。

 「室戸にヘリポートができたでしょ」と脳神経外科の溝渕雅之医師(48)。県立安芸病院から脳外科が消える直前、平成十八年二月のことだ。

 「あのころから東部の急患が、どんどん来始めたんです。どこから来てるか聞いたら、救急車は安芸方面から。ヘリも、それまであまり来なかった室戸からの要請で、突然のように舞い降りてね。午前中だけで二回、室戸へ飛んだこともあったから」

 高知医療センターの屋上にはヘリポートがある。遠方で重症患者が出ると、高知空港から高知医療センターへ飛んできたヘリに救急医が乗って現場へ直行。室戸なら二十五分で往復し、一階の救急外来へ直行する。

 当然、救命率は上がるし、それまで救急車で一緒に付き添ってきた医師も、病院を何時間も留守にすることがなくなり、へき地医療にとっても恩恵は大きくなった。そのPRが行き届いたためか、室戸だけでなく、県内全域からヘリが来るようになった。

 そうなると、救急車と同じような問題が起きてきた。軽症の患者もヘリで運ばれてくるようになったのだ。

 「脳幹出血だから」と老健施設から送られて来た人は、単なる排便性の失神だった。「脊髄(せきずい)損傷」ということで整形外科医が迎えに行ったら、単なる打ち身だったことも。

 「そんなのが西から東から三回続いたこともあったからねえ」

 県消防防災ヘリ「りょうま」。今、注目を集めている空飛ぶICU「ドクターヘリ」と比べると装備は落ちるが、時間短縮効果は抜群だし、ヘリの中で医師が呼吸を助けるための気管挿管ができるだけでも威力は大きい。

 「まさか、ヘリの力がこんなにあるとは想像できなかった。はるかかなたから急にポンと来るようになったんですから。軽症の患者さんが来るのも、ある程度は織り込み済みなんだけど、事前にCTとかエックス線の画像を伝送してくれていたら、こっちからの指示だけで済んだ場合もあるから」

 軽症患者への対応で消耗してしまうとストレスがたまり、重症患者に全力投球しづらい状況が発生するという。

 かといって、へき地の小さな病院は人手も少ないし、CTやMRIといった検査機器がない所もある。「無理して自分が診るより、専門医に任せた方が患者のため」という気持ちも当然、出てこよう。

 ヘリ搬送を頼んだ経験のある医師に話を聞くと、「救急車の搬送でいいかな」と思う患者でも、家族から「ヘリで送って」と言われると、断り切れない時があるという。もし、後で何かあった時にトラブルになりかねないからだ。

 一回の飛行で七十万円近い経費が掛かるが、それは税金で賄われるから、利用者は気軽に頼みやすい側面もある。

 「だから、そこの見極めが難しいんですけどねえ…」と溝渕医師。

 同じ高知市内の高知赤十字病院や民間の近森病院も救急車を数多く受け入れているが、ヘリは直接飛んで来ない。

 「ヘリが来るとなると皆、緊張しますからね。仕事を止めてスタンバイする。警戒の度合いも負担も違うわけ。だから疲労感が大きいんですわ」

 
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