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2008年02月06日付・夕刊
(3)後継者が激減自分の命を削って他人の命を救うような激務。高知医療センターの溝渕雅之医師(48)の話に驚きながら、素朴な疑問が浮かんだ。それほど寝不足で手術して大丈夫なのか。 「だってほかにおらんから。だから、僕は忘年会や歓送迎会も出ない。お酒飲むより、横になって体を休めた方がましなんです」と言って、こう例えた。 「車ならアクセル全開ですっ飛ばしてるようなもの。高速道路を百七十キロぐらいでずーっと飛ばし続けて、オーバーヒートして、シュルシュルシュル…となりそうな」 胃潰瘍(かいよう)や血圧の薬、安定剤をいくつも飲んでいるという。しかも、断り切れない学会発表や論文の締め切りもあり、さらに寝られない。 「コーヒーなんかもガブガブ飲む。週のうち、二日だった徹夜が四日になったら、もう持たんでしょう」 ―こうやってしゃべる時間ももったいない? 「そう。降り積もる雪みたいなもの。雪かきしても全然、降りやまない。雪は春が来れば解けるけど、ここは春が見えないんやから。だから、僕は思うわけ。自衛隊が派遣されていたイラクのサマワは、こんなものかなって。病院と官舎の往復だけの缶詰状態なんですよ」 ◇ ◇ 全国的な外科医不足。中でも脳外科はかなり深刻だが、あまり注目されていない。 日本脳神経外科学会に入会した医者の数は、平成十五年度までずっと二百人台だったのが、百人台に落ちた。 理由は「訴訟が多い」「休みが取れない」。産婦人科や小児科と状況は似ているが、さらに十六年度から始まった研修医の新臨床制度が響いた。医師免許取得後の二年間、研修が義務化されたのだが、その中に脳外科の研修は原則的にはないのだ。 「循環器や消化器内科・外科、精神科とかは順番に二カ月間ずつ、必ず回るわけです。小児科は医師確保にものすごく力入れてるから。点滴とかも最初のうちは血管が細くて取れないんやけど、頑張ってるとできだす。そうやって一つ難しいのを越えると皆、興味を持つじゃないですか。そしたら、小児科医になりたい人間も出てくる。だけど、脳外科には最初から来ないんですよ」 専門性が高いから後回しなのか。それが後継者不足を助長している。 「顕微鏡を使うにしても六、七年目。後頭蓋窩(こうずがいか)という、頭の後ろ側の血管手術ができるには十年以上かかるといいますからね」 実は十九年度、中四国地区の脳外科入局者は、十大学で合計十一人しかいない。高知大も七年ぶりにやっと一人、入局したところだ。 「脳外科も少子高齢化で、新しい人材が出てこない。そしたら、僕らは、いつまでこういう生活を頑張ったらいいんですか? という話ですよね。まさかこんな時代が来るとは、誰も思わなかったんだから」 ◇ ◇ 十八年夏、溝渕医師が語った脳外科の窮状はまだ続いたが、話を一年後、昨夏の再会の場に移そう。 |
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