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アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズ総監督の富野由悠季さん…人類の革新 ニュータイプが地球を滅亡から救う

ガンダムに登場するモビルスーツ・ザクを前にした富野さん。若い世代への期待をもっている

 日本のアニメの名作として、1979年の第1作放送から現在もシリーズが続いているのが「機動戦士ガンダム」。その原作者が、数々のガンダムシリーズで総監督をつとめた富野由悠季(よしゆき)さん(66)だ。その富野さんは今、アニメで描かれたレベルをはるかに超えた地球環境の破壊を心配している。人間が発想を転換し、地球と共生する新たな方法論を持った「ニュータイプ」として目覚めることを願っている。

 地球温暖化と異常気象のひん発、世界に広がるテロや核、悪化するエネルギー事情…。富野さんの目には、28年前に「ガンダム」で描いた近未来の世界よりも、現実の世界の方がはるかに悪い状況に映っている。「(ガンダムの放映から)30年近くがたち、人口増や環境汚染をリアリズムとして認識せざるを得ない。人類は、20世紀初頭からたった100年で、それまでの数千年で消費してきた何倍もの物質を消費している。もう巻き戻しのきかないところまで来た」

 「ガンダム」の冒頭では「人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、すでに半世紀。地球の周りの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった…」というナレーションが入る。地球と月の間にスペースコロニーが設けられている設定だが、富野氏は「コロニーが実際にできる可能性は絶対ない」とあえて自ら作った設定を否定。「コロニーは地球と同じ重力を作るために自転しているが、そのためにはぼう大なエネルギーを消費する。地球にそんな必要はない。あと数億年は自ら回っているわけだから」

 現在、人間自ら地球を滅ぼしかねないところまで来た。地球温暖化対策のための京都議定書も米国などの超大国が産業、経済論的な理由で参加せず、CO2対策も進まない。富野さんは地球の現状に絶望感すら覚えていたそうだが、雑誌の対談で、もともとガンダムを知らない環境ジャーナリストから「今の地球の状況は、人類がニュータイプになるための試練」と言われ、考えを改めた。「われわれの世代にない新しい常識を持てる世代がいれば、それほど絶望するものではないと思った」ガンダムのストーリー中に出てくる「革新的な人類」の総称である「ニュータイプ」という言葉が、一般の人からごく自然に出てきたことに感動した。

 富野さんによると、〈1〉資源を消費するだけの段階〈2〉消費は美徳ではないことを知り、新たな常識を生む段階〈3〉その後の新世代による新たな常識と地球再生の技術論の確立、という3段階を経て「革新的な人類=ニュータイプ」が出現する。今の人間は〈1〉から〈2〉への過渡期。そして新しい常識が確立すれば、ニュータイプである次世代が人類を〈3〉へ導いてくれる。「新たな常識を持った世代なら、今の科学技術で解決できないことを考えついてくれるかも知れない。砂漠で太陽光発電をしたり、人工衛星の軌道に太陽パネルを作ることだって不可能じゃない。ライト兄弟(の飛行機)からスペースシャトルまでたった100年で到達した。旧世代のわれわれには、次の世代をそういう方向へ導いていかなければならない責任がある」

 そのために、日本人には何ができるのか。「東西の文化を、これだけミックスした土地はほかにない。どの文化や宗教にも偏らないメンタリティーを作れる可能性があり、人類の水先案内人になれる可能性がある。胸を張って世界に出ていっていい」日本人はニュータイプの素質を持っており、地球環境を再生する切り札的な存在になれると断言した。

 第1作以降もガンダムは次々と続編や外伝が作られ、そのたびに様々な歴史設定が付け加えられて壮大な「スペースオペラ」になった。しかし、05年の「Zガンダム」劇場版3部作を除き、ここ数年の作品は富野さんの手を離れている。しかし、シリーズは今も続行中。第1作の時には生まれていなかったような若い世代もガンダムを支えている。「ガンダムワールドの一員となり、かかわれたことで、これだけリアルな手ごたえを感じられる。いい時代だったと思う」新たなガンダム世代が地球環境を守り、再生させる。日本を代表するロボットアニメの生みの親は、そう信じている。
◆勧善懲悪の既成概念をぶっ壊した

 日大芸術学部では映画学科に在籍した富野さん。子どものころ読んだ手塚治虫の漫画に描かれた未来の世界に衝撃を受け、映画製作を志望していたが果たせず、アニメ演出家に転じた。「僕は劣等生。作家性がない。仮面ライダーやウルトラマン(のようなキャラクター)も作れなかった」と話すが、ドラマ性にこだわり既成概念を覆す試みを必ず盛り込む革新的な作風は、映画志向から来ているものだろう。

 富野さんが「ガンダム」で訴えた「善悪とは、立場や視点によって変わる」という勧善懲悪ドラマへの挑戦は、それ以前から続いていた。実質的な初監督作品「海のトリトン」(1972年)は、ラストで主人公のトリトンこそが侵略者の立場だったという衝撃の事実が判明。「無敵超人ザンボット3」(77年)では、主人公が敵と戦い、地球を守っても、逆に侵略者を呼びこんだと非難され孤立。肉親や友人が次々と戦死するなど、アニメらしからぬ重いストーリーが話題を呼んだ。

 演出のかたわら、主題歌の作詞やメカデザインまでこなす情熱的でエネルギッシュな仕事ぶりにも定評があり、富野作品のスタッフからはアニメ界を引っ張る人材を数多く輩出している。

 ◆富野由悠季(とみの・よしゆき)本名・富野喜幸(読みは同じ)。1941年11月5日、神奈川・小田原市生まれ。66歳。日大芸術学部を経て手塚治虫氏の虫プロダクションに入社し、演出家として「鉄腕アトム」を手がける。その後虫プロを退社し、数々のテレビアニメの演出を経て「海のトリトン」で総監督。79年には「機動戦士ガンダム」の総監督として、80年代のアニメブームの立役者となった。以後も「伝説巨神イデオン」「機動戦士Z(ゼータ)ガンダム」など数々のロボットアニメを世に送り出した。最近では大学講師もつとめ、日本を代表するアニメ演出家として活躍。家族は妻と2女。

 ◆ニュータイプとは

 「ガンダム」の中で、重要な役割を果たしている設定が「ニュータイプ思想」だ。第1作「機動戦士ガンダム」で登場するニュータイプの定義は、一言で言えば「先入観や自らの考えに固執せず、肉体的にも、精神的にも、お互いのことを完全にわかりあい、受け入れることができる人類」。

 ニュータイプは直感的にお互いを理解しあえるのだから、戦争を止めることもできる存在のはず。しかし、「ガンダム」の世界では、ニュータイプの持つ超人的な洞察力、反応速度の速さなどの能力を戦闘にだけ使った結果、ほとんどのニュータイプが悲劇的な最期を遂げる。

 「ガンダム」終盤で登場するジオン軍の女性兵士、ララァ・スンはアムロと出会った瞬間、直感的に引かれ合う。だが、2人は敵味方の間柄。ララァは自らの後見人で、もうひとりのニュータイプでもあるシャア少佐を慕っており、3人の感情が複雑に絡み合う中、ララァはアムロのガンダムと戦い、シャアをかばってガンダムに撃破され宇宙に散る。この悲劇はガンダム第1作のストーリー終盤のクライマックスとして描かれている。

 [「ガンダム」アラカルト]
▼人間ドラマ
  「ガンダム」では、敵も味方も同じ人間。背後に細かい世界観、人間観を構成し、主人公のアムロも機械いじりが好きで、内向的な普通の少年。脇役も丹念に描かれ、若者たちは、戦いの中で悩み、傷つき、出会いと別れを繰り返しながら成長していく。敵役のキャラクターも魅力的で、持ち味はメカよりも人間ドラマにある。
▼絶大な人気
  第1作はテレビ放送終了後に人気が高まり、比較的高い年齢層の中高生~20代に熱狂的に支持され81年~82年に劇場版3部作を公開。第3作の「めぐりあい宇宙編」は82年の邦画配給収入第4位の12億9000万円を記録した。
▼ガンプラ
  登場するモビルスーツのプラモデル「ガンプラ」も大ヒットし、ガンダムの制作会社サンライズが属するバンダイナムコグループによると、関連商品は06年だけで総売り上げ545億円を記録。
=2007年12月20日掲載=

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(2008年3月3日18時44分  スポーツ報知)

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