【3万6000キロを走破】
NHKの番組で、日本、ヨーロッパの鉄道路線を乗り尽くす旅を続け、昨年の「中国鉄道大紀行」では3万6000キロを走破。一大ブームを巻き起こした。ただ列車に乗るだけでなく、民族楽器を器用に演奏したり、得意の絵や書を披露して現地の人々から素朴な笑顔を引きだした。「中国のイメージが変わった」と大きな反響を呼んだが、彼のキャラクターに負う部分も大きい。「中国への偏見を覆しただけでも事件でしょう」と当人も胸を張る。
【削られたシーン】
しかし、である、関口知宏は不満なのだ。感動した出会いの多くが番組で流れない。カメラは回っていたのに、編集でカットされたからだ。
たとえば列車内の喫煙所。いくら会話が面白くても、たばこを吸っているシーンはアウト。「これを食いな」と、なけなしの食べ物を分けてくれた親切な乗客も、その客が床にたんを吐いた途端、はい、カットだ。
「人を押しのけて(列車に)入ってきた人が、話しかけたら親切だったりね。人間の素(もと)は悪くないんだ」。だが、日本の尺度でマイナスイメージと判断されれば番組的にはNGとなる。
江蘇省のある町でのこと。高齢の男性が「ニホンゴ知ってるよ」と言って近づいてきた。日中戦争のことでも持ち出されて責められるのかなと構えていたら、「アイウエオ。友好、友好」。あっけらかんと笑顔で言葉を続けたのだ。
「なんで、こうもおおらかなの、と思った。攻撃側と被害者という単純なものではないんだ、とね」。車窓から見たどんなきれいな風景より心に刻まれたシーン。だが、カット。戦争時代に日本語教育を強要されたのだろうという負のイメージを嫌っての処置だった。
「一番おいしいところ落としてどうすんだ。なんで、きれいごとにしちゃうんだ!」。思わずスタッフを怒鳴った。だが、冷静に考えた。下品なものや汚いもの、自分たちの尺度に合わないものを隠す風潮は日本全体にあるのだ、と。
NHKについても「事件を(自ら)起こすから立場が弱いこともあるけど」と前置きしつつ、「視聴者からクレームがくるから(マイナスの映像は)出せない。視聴者はクレームをつけることで自分で自分の目や耳をふさいでしまっているんです」と言う。
【親の二十一光!?】
歯にきぬ着せぬ物言いは父・関口宏ゆずり。母は「コーヒールンバ」のヒット曲で知られる西田佐知子(旧姓)、祖父も俳優の故佐野周二で「親の七光かける3で二十一光」と自嘲(じちょう)しながらも、「芸能界入りと親は関係ない」。「子供のころから表現することが好きで、絵も音楽も…と考えた結果、芸能界に行きついた」という。そして芸能活動8年目にめぐり会った“表現の場”が鉄道の旅だった。
中国の旅で1つの四字熟語を創作した。「異郷有悟」。「外国に行って、その国の良さを知れば、自分の国の良さが分かる」の意味という。
「中国人のストレートさ、人なつっこさは素晴らしい。それを知ったことで、日本人の謙虚さもたまらなく素晴らしいと思えるようになった。日本人がストレートになる必要はない。そうなると、日本の良さが崩れる。日本人はすぐ自信をなくすけど、日本にしかできない国際貢献はいっぱいある。日本人は人を立てるプロ。その国のものを生かして問題を解決すればいいんですよ」
今回の旅は“貢献”できたのだろうか?
「思いの1割は伝わり、(視聴者の)中国に対する印象が変わったと思う。残りの9割は絵や文章(紀行文)で表現していきますよ」
“旅”は始まったばかりだ。
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