「韓信(かんしん)の股(また)くぐり」。金沢の講演で伊吹自民党幹事長から古い言葉が出た。衆参のねじれ解消へのがまんの姿勢を述べたものだった 若い世代にはなじみ薄い中国故事から来た言葉だが、政官界では今でもよく使われる。昨年、就任直後の福田首相も「韓信」を引き合いに出して耐える心境を語ったことがある。幹事長はこれを踏まえたのだろう 政治評論家の早坂茂三さんも「宰相は忍の一字」と生前よく使った。谷内前外務次官も、安倍前首相の中韓歴訪時に、韓信の故事の大切さを直言したと聞く。一定の年齢以上の人たちに染みこんだ教訓なのかもしれない 韓信は前漢時代の人。若いころ乱暴者との無駄な争いを避けて、言われるがまま相手の股をくぐった。大志ある者は小さな恥辱に耐え忍ぶとの教えだ。やがて韓信は「国士無双(こくしむそう)」と評されるほどの武将になり、有名な「背水の陣」の故事も残した。耐えるだけの人ではなかった そこで、崖っぷちに立つわが日本の与野党の知将・猛将に問いたい。背水の陣が意味する決死の覚悟はあるのかと。国会は混乱するが、それだけの緊張感がさっぱり伝わって来ないのは、なぜか。
|