大相撲の時津風部屋で起きた力士急死事件で、名古屋地検は制裁目的の暴行で入門間もない力士を死亡させたとして、傷害致死罪で元親方と兄弟子の力士三人を起訴した。
相撲界で、力士に対し伝統的に行われてきた「かわいがり」と呼ばれる激しいぶつかりげいこでは、倒れた力士を足げにしたり竹刀で殴ったりするのは日常茶飯の風景とされてきた。けいこを暴行と認定した前例のない事件の捜査はこれで終結し、今後は公判の場で実態が明らかにされることになる。
起訴状によると、元親方と兄弟子らは、若手力士が宿舎から逃げ出したことに腹を立て、共謀してビール瓶や木の棒で殴打した。翌朝は約三十分間の激しいぶつかりげいこをさせ、倒れた若手力士を金属バットなどで殴り、多発外傷性ショックで死亡させたとした。
また愛知県警捜査本部の調べでは、元親方は自らビール瓶で殴り、兄弟子に「おまえらもやってやれ」と指示した。ぶつかりげいこでは、倒れた若手力士の顔にホースで水をかけたりしている。すさまじい暴行の連続にはあらためて驚かされる。
しかし、元親方はぶつかりげいこについて「信念がある。部屋を逃げたけじめをつけさせるためにやったが、あくまでけいこ」と主張している。前日にビール瓶で殴打したり柱に縛るよう指示したことについては認めたものの「しつけだし、暴行は弟子が勝手にやったこと」と、制裁目的という犯意は否認している。
一方、死亡前日の暴行について、兄弟子三人は「元親方の指示でやった」と供述し、元親方と言い分が食い違っている。けいこについても「長いと思ったが、元親方の指示なしではやめられなかった」と供述している。責任をめぐってかつての師弟が公判で対決することになろう。
なぜこれほど激しい暴行を続けてしまったのか。命が危ないとは思わなかったのか。疑問は多い。背景には弟子が親方の命令を絶対視する相撲界の古いしきたりがあったことは間違いなかろう。検察は直接的な暴行だけでなく、相撲界の体質についても公判で明らかにしてほしい。
日本相撲協会の対応の鈍さも問題だ。起訴された兄弟子三人について、当初は裁判が終わるまで処分を保留する意向だったが、急きょ処分する方針に変えた。世論の批判などを考えての決断だが、場当たり的に過ぎよう。横綱朝青龍の不祥事、新弟子希望者の減少など相撲界は問題が山積している。不信解消への取り組みはまだ不十分である。
経営再建中の日本航空が、総額千五百三十五億円の増資を大手商社や主力取引銀行に引き受けてもらうことなどを柱とした二〇〇八―一〇年度の中期経営計画を発表した。
アジアなどのビジネス需要増加により国際線を中心に業績が好調で、利益の回復基調は鮮明だ。昨年二月時点で八百八十億円を見込んだ一〇年度の営業利益目標を九百六十億円に上方修正した。経営再建は順調に進んでいる。
日航は運航トラブルや経営陣の内紛で経営悪化が表面化し、昨年二月に人員削減や不採算路線廃止など合理化を進める中期計画を策定した。今回は財務基盤を強化するためさらに見直しを行った。
計画では、増資は銀行など十四社に優先株を発行して実施する。燃費が良い米ボーイング社の新型機B787など六十五機を導入し、一〇年に予定される羽田、成田両空港の発着枠拡大に備える。
経費見直しでは、新たに給与や手当の改定などで年間百億円程度、人件費を追加削減する。〇六年度比で社員数を連結ベースで約四千三百人少ない約四万八千八百人とする計画は、〇八年度末までに一年前倒しで実現する。
しかし、再建への課題は多い。原油価格の高騰で、燃料費は約八百億円膨らむ見通しだ。好調な国際線も米景気減速で落ち込む懸念もある。再建を確実にするには、貨物便や国内線立て直しなど、たゆまぬ経営改革が求められる。
今年二月に北海道・新千歳空港でパイロットが管制官の指示を誤解し、許可なく離陸を始める重大ミスがあった。三年前にも同様のトラブルがあり、再発防止策を講じたはずだ。安全運航をおろそかにしての再建はあり得ないことを銘記すべきだ。
(2008年3月3日掲載)