別 紙
障害者政策〜特に就労支援・起業支援に関して(試案&私案)起業準備中の障害当事者として 在野真麻
★はじめに★
●障害者は、福祉だけか?
現在、府の障害者に関する相談窓口は「福祉」に偏っているような気がするが、障害者の社会参加、特に仕事を持って経済的自立を果たしたいと考えるものにとっては、このレベルでは役に立たないと思う。本年4月より国の障害者自立支援法が施行されて、ますます当事者自己責任のもとに自力で生きることを求められているにも関わらず、フォローする対策がなければ、障害者はいっそう貧困の悪循環に陥るしかない。現実に車椅子に乗りながら路上生活を余儀なくされている人もあるが、今後はそうした人がもっと増えるおそれもある。具体的な話ではこれまで無料で支給された車椅子ひとつとっても購入となれば大きな負担が伴うわけで、少なくとも、当事者がそれを支出できるだけの経済力を持つために、就労の機会を保障される必要がある。そこで、ここでは府の就労支援の中に書かれた障害者政策について知事候補者のご意見をおききしたいと思う。
★問題は「能力」なのか〜IT等のキャリアアップ支援策に思うこと★
2005年12月に策定された府の「新京都府雇用創出・就業支援計画」の中では、「2.地域経済・社会を支える人材の育成・確保−5)障害者の職業的自立支援」という形で、在宅就労を促進するためにIT技能のキャリアアップ(「IT等のキャリアアップ支援」)を行うとしているが、依然として障害者「法定雇用率1.8%、2010年目標」でしかない現状の中で、はたして障害者の職場確保や職業訓練などの支援だけで解決するのか。はたして障害者は能力がないから就労できないのか(一般の求職者でもパソコンができたところで職にありつけるわけではない)。様々なフィルターをかけられる障害者が、人によっては不得意な分野をわざわざ訓練しても、はたして雇用に結びつくのか。
★その上に「合法的」な年齢制限で、八方ふさがり★
他にも差別を禁止しているはずの年齢や性別が、事業主から敬遠される要因になっている。そうなると、障害を持つ中高年女性にはまったく就労の道が閉ざされているといわざるをえない。府の正規職員定期採用においても、1985年から障害者雇用枠があるが、基本的に年齢制限があるのでは、特に中途障害の働き盛りにとっては全く意味がない。府が採用において率先して「年齢・学歴不問・障害者雇用」をすすめていくことこそが、民間事業所に影響力を持つといえる。この場合、一方で若者の就職難のことが引き合いに出され、「新卒でも就職できていないのに」中年の、しかも障害者が就職できないのは仕方がないという風潮がみられるのも残念である。
★法定雇用率を無視する事業所★
●不安定雇用の増加の中で一番先に排除
法定雇用率は達成しなくても、(事業所にとっては)わずかの罰金を支払えば済むという現行のやり方にも問題はないのか。しかも、官庁関係ではすでに定期の新規採用者数だけで「法定雇用2.2%」を満たしている場合が多く、そのせいもあってか中途で採用することには消極的である。したがって、官公庁であっても新卒で法定雇用を満たしているところでは、中途採用で障害者を雇用することはほとんどないと思われる現に、身体障害者や視覚障害者が働きにくい建造物の中で重たい資料を動かす仕事の多い府庁の臨時採用面接の経験を持っている者によると、ここでも不採用の事由として、障害者雇用制限があった。表向きの理由は車椅子用のトイレがないとか、階段があるということになっているが、効率の悪いものを排除したいという本音は隠せなかったようだ。
また、現実には事業所によって巧妙に仕組まれた短期雇用・短時間雇用が多い。その結果、障害者雇用の際に事業主に支払われる給付金も出ない、障害者を雇用することで給付される建物改装のための金が出ないという問題もあると思う。つまりこのような形態で採用している事業者にとって目先のメリットがまったくないということになる。一般にみられる不安定雇用の常態化がさらに障害者を雇用の場から排除しているということだろう。これはかなり問題である。本来、職員数が十分にあれば産休代用職員などを臨時に採用する必要もないわけで、半年とか三ヶ月といった短期の求人で求職者が転々と振り回される事態は防げるのではないか。
★障害者はITさえ出来ればよいのか★
●障害者だって、多様な能力を持っている〜だからこそ、「バリアフリー」やねん。
また、障害者は在宅でITという発想自体、障害者の個性や能力を一面的、画一的にとらえており、経験も技能も多様な(特に多くの中途障害者にとって)当事者の就労機会に制限をかけるものではないだろうか。例えば車椅子利用者であってもITより営業や人と接する仕事が得意な人もある。さらに障害の原因となった病気の種類によっては長時間のパソコン作業に向かない場合もある。障害者=動けない=デスクワークという発想には思いこみ以外の何らの根拠もない。画一的に、在宅就労を進めるのではなく、一般の求職者と同等の就業政策が必要ではないか。そのためにも、雇用主を対象とした障害当事者理解のための研修などを行って、障害を持たない人と分け隔てなく労働の権利が保障されるようにすべきではないか。さらに、障害者が外で働いても何ら問題がないように交通機関やオフィスのバリアフリー化を進めて、アクセシビリティを高めていくことを義務づける必要もあるだろう。
★審議会のありかた★
●誰が叩き台を作るのか…そこに障害者がいない!
なお、この「計画」を作るために2005年4月〜2005年11月にかけて開催された「京都府雇用創出・就業支援計画推進会議」であるが、の審議委員メンバーの中に障害を持つ当事者の登用がない。障害当事者の視点を持つものが入らずに障害者の就労問題を討議するところに限界があると言わざるをえなく、ヒヤリングも委員に対してだけでなく、現実の問題を抱えている障害者に対するものが必要ではなかったのか。
★課題は…★
●急がれるNPOや起業支援〜資金面での支援も
障害者の場合、なんとか就職を果たしても受け入れ体制が十分でなかったり、職場環境、人間関係や体力の問題などでその後就労を継続できなくなり、一般事業所で働ける能力はあっても授産施設やデイケアに移るという人も少なくないようである。障害者が働くということを職場の人権問題として、たとえば「学校カウンセリング」のような支援体制を障害者の就労支援としてもうけることは不可能であろうか。
さらに、ここは少し従来の「働き方」とは視点を異にする事業経営のありかたも検討されるべきではないかと思う。特に障害者自身による事業興しやNPOの主宰など、障害者のあたらしい働き方に関する実効性のある支援に、予算面での支援も含めて、もっと府として力を入れてほしい。