◇「首相が前面に出よ」--毎日
◇「改革を優先」--産経
一体、この組織はどうなっているのか--。不信感、いや不安が募っている人が多いのではないだろうか。
2月19日、イージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故が起きてから10日余り。新聞各紙は1日までに毎日、朝日、東京が4回、日経、産経が3回、読売が2回、この問題を取り上げてきた。読売を除けば「連日のように」と表現してもよさそうだ。
新鋭のハイテク艦船が、長さも幅も10分の1程度でしかない小さな漁船に衝突し、船体を真っ二つにしてしまう……。事故の衝撃だけでない。
まず、「あたご」が漁船に気づいた時刻が二転三転し、その後も事故当日、あたごの航海長をヘリコプターで本省に呼び寄せた一件など、石破茂防衛相ら防衛省の説明は「修正に次ぐ修正」という事態に陥っているからだ。
◇朝日「防衛相更迭を」
この混乱に対し、当然、各紙の論調は厳しい。
毎日(2月29日)は「現場と海幕、海幕と内部部局、内局と防衛相、それぞれの段階で度しがたい壁が存在しているのではないか」と指摘したうえで、「それは組織の弱さであるばかりか、自衛隊運用の最重要原則である文民統制を危うくする病巣だ」と断じた。
この国の防衛組織に対するシビリアンコントロールは本当に機能しているのか。今回の事故の最大のテーマだろう。
朝日(29日)は「だれも全体像を把握できず、バラバラに対応しているだけなのではないかと思えてくる」と書き、産経(28日)も「危機管理を担う役所としての機能に疑念を持たざるを得ない」と指摘した。東京(1日)は「省自体がまるで自力航行不能の状態に陥っている印象だ」と嘆いた。
混乱を極めて深刻にとらえている点では各紙、共通しているといっていい。ただ、若干の違いが見られるのは石破防衛相の進退問題に関する主張である。
朝日は27日、「国民や国会に説明できなければ、防衛相として失格である」と批判し、29日は福田康夫首相に対し、速やかに防衛相を更迭し、関係者を処分するよう求めた。東京(27日)も「進退への波及は避けられまい」と指摘している。
これに対し、産経(28日)は「現時点での閣僚の引責辞任で問題は解決するだろうか」と防衛省の改革が優先課題だとの姿勢を鮮明にしている。また日経(27日)も石破防衛相の辞任について、海上自衛隊は「首をすくめてそれを待つ」とストレートに記し、辞任しても「海自に反省を求める効果はほとんどない」と指摘。むしろ、統合幕僚長らを直ちに更迭すべきだと重ねて主張している。
◇言及少ない読売
一方、読売(27日)は「(野党が)石破防衛相の責任を追及している」と事実関係を記すにとどまっている。
私たち毎日(29日)は、石破防衛相について「航海長からのヒアリングに直接関与していながら、その事実を明らかにしてこなかった石破防衛相自身の言動も、自衛隊不信に輪をかけている」と指摘したうえで、「その政治責任は重大だ」と書いた。
辞任論は与党幹部からも出ており、いずれ政治テーマとなるだろう。防衛相もどこかの時点でけじめをつける時期が来ると思われる。しかし、メディアが声高に辞任論を展開するより、先にすべきことはないかとも思うのだ。
◇事実の整理も役割
防衛省の説明が迷走する中で、日々の報道も従来以上に「何が事実か」を把握する力が求められている。社説はあらゆる事柄に関して論じ、評価をし、提案、主張をするのが大きな役割だが、事実関係を整理して、一つひとつを丁寧に説明し、チェックしていく場でもあると考える。
例えば事故の当日、あたごの航海長を防衛省に呼び寄せ、石破防衛相らが聴取した問題も、私たちは「海自が当事者となった重大事故に際し、防衛省が独自に隊員から事情を聴き、事故の概要を掌握することは非難されるべき行為ではない。何も調査しない方がむしろ問題だろう」と指摘し、「海保の捜査権に配慮し、明確に了承を得ていればすんだことである」と総括した。問題の整理とは、そうした意味である。
見逃せないのは福田首相の対応だとも毎日は再三、書いている。自衛隊の最高指揮監督権は首相に属する。海上自衛隊と海上保安庁との間に亀裂が生じているのであれば、首相と首相官邸が調整するのは当然である。防衛相任せになどしている場合ではないと考えるからだ。
27日には「首相官邸が乗り出し、政府の責任で国民の不信、不安を和らげるべきである」と主張し、29日も「事故をめぐって政府全体が支離滅裂な印象を与えている。なのに首相官邸の動きは緩慢過ぎる」と厳しく批判したのは、そのためだ。
朝日も同様に29日には「もはや福田首相が乗り出して、今後の対応の筋道を示すべき段階だ」と書いた。福田政権そのものを揺るがす事態であるとの認識は、メディアの中にも広がってきている。
事故はなぜ起きたか、核心部分といえる事実の解明は、まだほとんど進んでいない。私たちは今後もことある度に、何度も何度も社説で取り上げ、問題提起していくつもりだ。【論説委員・与良正男】
毎日新聞 2008年3月2日 東京朝刊
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