救急患者の受け入れが地元の病院で困難だった場合、他県に搬送するための照会手順などを決めている都道府県は全国の約4分の1の11県にとどまることが、厚生労働省の総点検結果で分かった。昨年8月に奈良県内で妊婦が搬送中に死産したケースでは、消防が隣接県の受け入れ状況を把握できず搬送が遅れたことが問題になったが、改善が進んでいない実態が浮かんだ。
総点検は奈良の事案を受けて、昨年12月~今年1月に実施した。県境を越える患者の搬送体制を聞いたところ「搬送条件、方法、手順などのルールと、照会する医療機関を決めてある」としたのは▽岩手▽新潟▽千葉▽山梨▽岐阜▽三重▽福井▽奈良▽和歌山▽宮崎▽鹿児島--の11県。29都府県は「決まっていない」とし、残りは無回答だった。
福井県の場合、重篤で県内で手術が無理なケースに限り、県立病院や福井大学病院が隣県の大学病院などに受け入れを要請すると規定。山梨県は搬送に当たっている消防本部が、あらかじめ決めた隣県の医療機関に照会するとしている。
また、救急患者の受け入れ可能な医療機関を検索できる「救急医療情報システム」を導入している44都道府県のうち、隣接県の情報を完全に相互利用しているのも▽三重▽奈良▽大阪▽和歌山--の4府県だけだった。急患搬送を妊婦が対象の「周産期医療情報システム」と連携させているのは21自治体あった。
救急医療情報システムは、ベッドの空き情報の更新が遅いなどの問題が指摘され、総務省消防庁の調査では全国の消防本部の過半数が「利用していない」と答えている。総点検でも「情報の即時性が確保できている」としたのは15自治体で、夜間・休日も全域で平日と同様に更新しているのは福島県、鳥取県など6自治体しかない。
国は急患受け入れ体制強化のため、来年度からシステム改修費の3分の1を都道府県に補助する方針。厚労省医政局は「隣県との情報共有は技術的に可能で、特に医療機関が多い大都市圏の自治体は整備を急いでほしい」と話している。【清水健二】
毎日新聞 2008年3月3日 19時35分 (最終更新時間 3月3日 19時49分)