ヒロノの南極海ダイアリー No.1
まえがき(ヒロノが南極海に放り出されるまでの衝撃の経緯)
ドラえもんがやってきた21世紀にもなれば、信じがたいことは実際に起こるものだ。寝てる間に「どこでもドア」にぶち込まれて漂流する船の上に放り出されたとしか思えない(「放り出された」という言葉はとても適切)。
3ヶ月ほど前の2001年8月(どこでもドアにぶち込まれる前)やる気
なく職探しをしていた私を、心ある(?)グリーンピースが拾ってくれた。面接
での運命的な(トリッキーな)質問から全ては始まる。「ヒロノさん、船に乗っ
たことある?」「ないですけど。」「乗ってみない?」「いいっスよー。何でも
しますよー。」と軽く口を滑らせた瞬間、そこは船上。しかも南極海。うっすら
と、事務所の引越しの手伝いをさせられた記憶と、下関で目玉をかぶらされた記
憶と、出発直前数週間でクジラ問題の基礎知識をダイジェストで叩き込まれた記
憶がある。もしかすると、そーゆーメモリーチップを脳に埋め込まれたのかもし
れない・・・と一瞬思ったが、「クジラ問題、ちょっと黙っちゃいられねーぜ」
という感情がついてきているところを見ると、どうやら私の足と意思でここまで
来たらしい。
何の因果で、何かの弾みで、ってな出来事はしばしば起こる。それが私の
場合たまたま「南極海4ヶ月航海クジラ問題ミッション付き」だっただけだ。こ
の稀有な状況とクジラ問題の真実を私がレポートするにあたって、そのうち若者
がスターバックスで「今日の南極海ダイアリー見た?やばいよねー、調査捕鯨」
てな風にだべる日も近い。たぶん。
1.アークティックサンライズ号と出航の地ケープタウン
グリーンピースの所有するアークティックサンライズ号(以下AS号)は
今までにクジラキャンペーンを初めとして、他いろいろなキャンペーンに使われ
世界を回航している砕氷船だ。大きさは949トン(といってもわからないと思
うけど結構小さい)1995年にグリーンピースがノルウェーの漁船を中古で買
い取り、改造した。今回の遠征の前は違法伐採のキャンペーンでアマゾンにいた
とか。そしてこれから日本の調査捕鯨船団を追って「商業捕鯨反対」のアピール
をすべく南極海に出航する。11月22日、私はそのAS号に乗船するため、南
アフリカのケープタウン(喜望峰。以下CT)に飛んだ。簡単に言うが、約一日
のフライトを経てやっとこさ南端に着いた。出発前日まで荷造りに追われていて
睡眠不足だったために機内で爆睡。シンガポール航空のスチュワーデスがキレイ
だったことしか覚えてない。
エージェント(船が接岸している間、物や人の手配等、港において一切の
お世話をしてくれる代行業者)がCTの空港まで迎えに来て、AS号が停泊して
いる岸壁まで車で運んでくれた。「思ったより暑いなぁ」と言うと「今は春の終
わり。今日は27℃まで上がるっていうから夏も近いね。」とエージェントのおっ
さんは言った。南半球にいることを実感。
4ヶ月生活を共にするクルーと初顔合わせ。まだ到着していないメンバー
もいるが、全員で30名。国籍は様々、16カ国の人がいるらしいが(紹介はの
ちほど)見たところアジア人は私だけだ(知ってたけど)。挨拶して回るが名前
が覚えきれない。その日は脳が考えたり記憶したりすることを拒んでいたので、
諦めて寝た。
それから今日まで6日間CTに居る。最高にいい所。また是非プラ
イベートで訪れたい。真中にテーブルマウンテンと呼ばれる山があり、写真のよ
うに山頂を雲が覆っている日には「テーブルクロスがかかっている」と言うそう
だ。出航予定日は26日だったが船の予定なんてのは未定と同じ。延びに延びて
今のところ明日の昼ということになっている。ステキなCTを離れるのは少し寂
しい。(11・28)
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