今週のお役立ち情報
「著作権は混迷」「ダメと言ってもネットは止まらない」──東大中山教授
2008年03月03日11時14分
"中山教授は3月末で東大を退官する 写真:ITmedia"
中山教授は著作権法学界の第一人者で、政府の知的財産戦略本部の構成員や、文化庁傘下の文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会の座長、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事長も務める。約20分の短時間に詰め込まれた濃い内容と問題提起に、参加者は聴き入った。
●19世紀の前提が時代に合わない
「19世紀の状況を前提にして構築された著作権制度が、インターネットの発展でとてつもなく大きな問題に直面している。混迷の度合いは、同じ知財法である特許法の比ではない」
著作権法の国際法「ベルヌ条約」が生まれたのは1886年。保護対象として想定されていたのは書籍や美術品などプロの手によるものだった。最新の改正も1971年と、ネットが普及するはるか以前だ。
IT化の進展で一般大衆も著作者となり、ネット上に著作物を発表できるようになった。「一億総クリエイター時代。著作権法はより普遍性を持った法律に変性してきた。従来の『権利者』の声だけを考えていい時代ではない」
●「ダメだ」とばかり言っていても、ネットは止まらない
20年ほど前まではプロ専用だった“複製機”が広く普及し、個人も手軽に、時には無意識に複製できる環境が整った。「著作権法を侵害したことがない人はほとんどいないだろう。訴える人がいないだけで、形式的には“一億総犯罪者”とも言える」――例えば中山教授が大学の研究室で他人の論文をコピーする行為も、「私的使用の範囲を超えているから」著作権侵害に当たると話す。
著作権法に重い足かせをはめられているのがネットビジネスだ。「新しいネットビジネスは、著作権を侵害する可能性が高く、著作権法がその阻害要因になっている。今のままでは、ビジネスを萎縮させるか、違法行為がはんらんするか、どちらかになる」
例えば検索エンジンのキャッシュの扱い。日本の著作権法では現状、キャッシュは複製とみなされるため、著作者に無断でキャッシュを作成・蓄積する検索エンジンサーバは「著作権侵害の可能性が高い」。ヤフーやグーグルなどは、検索サーバを国外に置いている。
「米国はMicrosoft、Apple、GoogleなどIT企業が一流企業となっているが、日本の一流企業の顔ぶれは変わらない。日本でもIT産業を興さないと将来はない」
YouTubeも、著作権法と摩擦を起こした新ビジネスの1つだ。「現在の著作権法から見ると違法コンテンツが多く、著作権者は削除にやっきになっているが、YouTubeのようなサイトは絶対に消えない」
「著作権を侵害する可能性がある新ビジネスでも、単純に拒絶するのではなく、いかに利益を還元するか考えるべき。YouTubeとも手を組んで、利益の一部を権利者に還元すると考えていくべきだろう。ダメだとばかり言っていても、インターネットは止まらない」
●強すぎる人格権が情報の流通を阻害する
日本政府は「知財立国」を目指し、著作物の利用・流通を促進するための施策を進めている。だが「時代に合わない著作権法が著作物の流通も阻害している」と中山教授は指摘する。特に、強すぎる同一性保持権が問題だという。
1970年に制定された現行法は、著作者に強い同一性保持権(著作者が、意に反する著作物の改変や削除などを受けない権利、著作人格権の1つ)を認めている。
「当時は強い著作人格権、特に同一性保持権がクリエイターの意欲を増すと考えられており、立法者はそれを考慮して『世界一強い同一性保持権を付けた』と話していた。創作のみを重視し、流通・利用は軽視されていたが、昭和40年代としてはやむを得なかっただろう」
だが流通する著作物の量が圧倒的に増え「著作物の経済財としての地位」が向上したため「処理しにくい人格権が流通を阻害している側面がある」と指摘する。著作権者の多くは『著作物をできるだけ利用してほしい』と望んでいるはずだが、強い人格権が邪魔をする」
強すぎる著作者人格権は、2次創作やパロディー文化の広がりもはばむ。「一般人による2次著作や共同著作が増えている。翻案文化はもう止められない」
法律で一度与えた権利を、法改正で縮小することは難しい。「法解釈によって権利水準を引き下げる努力が行われてる」のが現状だが「法解釈だけでは無理がある。立法の問題に踏み込まざるを得ない」。
これまで著作権法は、ほかの法律分野と隔絶した、自己完結的な法律だったという。「想定している価値が他の法律とどう関係するかの認識がほとんどなく、関係者は自己の利益のために汲々(きゅうきゅう)とし、全体を見ない傾向があった。だが、今や政府レベルで、国益的な判断が必要だ」
●著作権法は物権法的だが……
「有体物に付着して流通していた情報が、データという裸の形で、単体で流通し始めている。それをコントロールして封じ込めるのは不可能と認識すべき」――そんな現状認識も示す。
「従来の著作権法の枠組みは物権法的な構成になっているが、現代の著作物は、書籍やCDといった有体物に付着させなくても、データという無体物のままネット上を流通させられる。物権法的な構成のままでは、情報の利用が進まない」
●知財を共有する――コモンズの発想
「いわゆる“知財”とは逆の発想で、注目すべき考え方」と「コモンズ」を紹介した。「情報を独占して利潤を得るのではなく、共有・発展させることで全体が発展するという考え方」で、クリエイティブ・コモンズやオープンソースコミュニティーなどがその具体例だ。
オープンソースソフトウェアはソフト開発の効率化やコスト削減に貢献してきた。クリエイティブ・コモンズは「著作物のほとんどは商業ベースに乗らない」という前提で、無償でいいから利用してほしいという創作者の要求と、利用者の使いたいという欲求をつなげる試みだと紹介する。
「インセンティブは、創作への参加意識なのか、コミュニティーへの帰属意識なのか――研究を待つ必要があるが、独占を廃して共有し、利益を得るという考え方が出てきている。独占ではなく共有で発展しあう、という考え方に注目すべきだろう」
JASRACモデルの限界を超えて――「初音ミク」という“創作の実験”
「DRMが普及すれば補償金縮小」で合意へ
【著作権】に関連する最新記事はこちら
【知的財産】に関連する最新記事はこちら
【著作権侵害】に関連する最新記事はこちら
【クリエイティブ・コモンズ】に関連する最新記事はこちら
【私的録音録画小委員会】に関連する最新記事はこちら
Ads by Google
コメントを読む(1件) コメントする(ログイン)
前後の記事
- 日本HPの顧客情報14万件、ネットからアクセス可能な状態に ITmedia 03日15時33分
- 「著作権は混迷」「ダメと言ってもネットは止まらない」──東大中山教授
ITmedia 03日11時14分
- キヤノンの複合機に脆弱性、米研究者がアドバイザリー公開 ITmedia 03日07時00分
- 万全ですか? あなたの会社のセキュリティ対策
ITmedia 03日09時20分
- 【セキュリティ魂】脅威を予測する! iPhoneやスマートフォンへの攻撃も台頭
ネットセキュリティ 03日10時00分
ITアクセスランキング
- 1
- 今さらですが…ブルーレイ何がどう違うの? ゲンダイネット 03日10時00分
4comments
- 2
- 2008年のゲーム機市場、「PS3」にスポットライト
ロイター 03日08時53分
7comments
- 3
- 東芝の「選択と集中」戦略 HD‐DVD撤退、フラッシュメモリーは新工場
J-CASTニュース 02日21時32分
- 4
- モチベーションを上げる方法 FPNニュースコミュニティ 03日09時54分
- 5
- プロバイダの4割がヘビーユーザーの帯域を制限していることが明らかに GIGAZINE 03日10時27分
- 6
- ◎「トリニトロン」テレビの歴史に幕=ブラウン管、今月末で生産終了−ソニー 時事通信社 03日05時21分
- 7
- 「脳内」の次は「おっぱいメーカー」 ゲンダイネット 03日10時00分
- 8
- ジョジョの鉄球が実在した! 荒木飛呂彦もビックリ!? INTER News 02日16時16分
2comments
- 9
- エイリアンのような外見の巨大な貝「グイダック」 GIGAZINE 03日11時47分
- 10
- ドリームメーカー!伝説を生み出す男「スティーブ・ジョブス」 livedoor 02日09時00分
3comments
注目の情報
車検?乗換え?迷ったときは愛車の現在価値をチェック。
お得なカーライフのポイントは、高値で売れるうちに乗換えること。
carview愛車無料査定なら複数社の査定額をラクラク比較。
今すぐ現在価値をチェック!