石井正弘岡山県知事が、十一月十一日の任期満了に伴い今秋に予定される知事選に立候補する意向を明らかにした。四期十六年を目指すことになる。首長の多選問題への関心が高まっているだけに、四選の是非について考えてみたい。
多選には弊害が指摘される。知事は予算の編成や執行などで大きな権限を持つ。長く権力の座にいれば、周囲から反対や厳しい意見が出なくなるなどで不祥事の起こる可能性は高まろう。組織は自由闊達(かったつ)さが失われる恐れもあろう。地方分権が進めば、国から地方へ権限や財源が移譲され、知事の力はますます強まるだけになおさらだ。
首長の多選を制限しようと、一九五四年、六七年、九五年の三回、議員立法で国会に法案が提出された。しかし、いずれも審議未了で廃案となった。
再び多選問題に注目が集まりだしたのは、多選知事の不祥事が目立ったからだ。五期目だった福島県前知事の汚職事件が摘発され、全国知事会長を務めた梶原拓前岐阜県知事は、四期の知事時代の県庁裏金問題で批判を浴びた。
改革派知事の代表格といわれた岩手県の増田寛也知事(現総務相)は四期目を出馬せず、三期十二年で引退した。鳥取県の片山善博知事は二期八年で退任した。増田氏は「多選は県政の活力低下を招くからよくない」と理由を説明していた。片山氏も「多選は絶対によくない」とし「全力でやれば十年が限界だ」と語っていた。
反論もある。不祥事は一期目の知事でも起こしている。地域間競争が激しくなる時代を勝ち抜くには、知事のリーダーシップが重要になる。知事としての経験は大切だ。石井知事は出馬表明で「岡山の未来を切り開くため、不退転の決意を持ち、全身全霊をささげていきたい」と意欲にあふれる。
多選の是非は一概に言えないが、昨年五月に総務省の「首長の多選問題に関する調査研究会」が、人権や自由を保障するために権力を法的に制限すべきだとする立憲主義の考え方から、多選制限は「権力をコントロールする合理的な手法の一つ」とした報告書をまとめた。自民党選挙制度調査会も多選禁止を盛り込んだ報告書案をまとめ、法制化を視野に入れる。
地域にとって、知事選びは今後の発展を左右するだけに重大だ。国の法律で一律に制限するのは問題があり、それぞれの実情で考えるべきだろう。多選を制限するのかしないのか、多選とは何期までなのかなど、議論を高めていく必要がある。
福田政権初の二〇〇八年度予算案と、揮発油税の暫定税率維持を盛り込んだ税制改正法案が、与党などの賛成多数によって衆院を通過した。予算案は憲法の規定で参院送付後三十日で自然成立するため、年度内の成立が確定した。
本年度末に期限切れを迎える中で早期成立を目指す与党と、イージス艦衝突事故などへの追及を強めたい野党の思惑が絡み難航した。衆院本会議では民主、社民、国民新の野党三党が欠席し、与党の強行採決となった。野党は反発を強めており参院での攻防が激しさを増しそうだ。
予算案の年度内成立が確定したことにより、参院を舞台とした審議の焦点は税制改正法案へと移る。論戦をにらんで、民主党は政府の法案を内容や緊急度によって三分類し、それぞれ「対案」を法案として参院に提出した。
最大の争点である暫定税率などについては「道路特定財源制度改革法案」として、道路特定財源の一般財源化、暫定税率廃止、国直轄事業の地方負担金廃止などを打ち出している。
議論を戦わせる上で、民主党の対案提出は参院第一党として当然の対応といえよう。道路特定財源の一般財源化は税の趣旨から妥当か。暫定税率の廃止に伴う財源の手当てをどう捻出(ねんしゅつ)するのか。徹底した議論を聞きたい。
暫定税率は国民生活に直結した重要な問題である。参院で採決がなされず、与党が参院送付後六十日経過による憲法の「みなし否決」を適用して衆院で再議決し成立させても、ガソリン価格の大変動が混乱をきたそう。政府案と民主党の対案が出そろい、議論の場は整った。年度内に結論を得るよう与野党の早期審議入りを求めたい。
(2008年3月2日掲載)