東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 暮らし・健康 > 健康一覧 > 記事

ここから本文

【健康】

安易なレーザー治療に注意 椎間板ヘルニア 

2008年1月18日

写真

 つらい腰痛の代表格、椎間板(ついかんばん)ヘルニア。その治療法として「経皮的レーザー椎間板減圧術(PLDD)」と呼ばれるレーザー治療が広く普及してきた。健康保険適用外ながら、従来の手術に比べ体への負担が小さく、入院日数も短いことから患者の関心は高い。ただし、すべての患者がこの治療の適応になるわけでない。安易な実施により、悪化するケースもあり、注意が必要だ。 (遠藤健司)

 腰から左足ふくらはぎにかけ激痛が走ったのは昨年秋。愛知県の主婦(49)が病院へ駆け込むと、椎間板ヘルニアの可能性を指摘された。ステロイドなどの薬剤を局所に注入し、痛みの原因を止める神経ブロック注射を打ち、痛みは収まったが三日後には再発。病院で摘出手術を勧められた。

 手術への恐怖心がぬぐえなかった主婦が、インターネットで見つけたのが「短期間で社会復帰可能」をうたったレーザー治療だった。ところが、受診したカナレサージカルクリニック名古屋腰痛治療センター(名古屋市名東区)では「レーザー治療の対象外」。結局、約一カ月かかったが、神経ブロック注射とリハビリだけで痛みから解放された。

 椎間板ヘルニアは八割が数カ月から半年で自然治癒するとされている。そのため神経ブロックなどの保存的療法が基本となるが「十分な保存的療法がされないまま、レーザーや手術が行われるケースが少なくない」と加藤芳正院長は警鐘を鳴らす。

 同院には主婦のようにレーザー治療を求めて訪れる患者や、ほかの病院で治療したものの痛みが取れないといった患者が多い。ほかの医療機関を受診した患者のアンケートによると、神経ブロックについて説明を受けた人は42%にすぎなかった。「神経ブロックを受けていても七割は十分でなかった。短期間で治療をという患者さんの要望もあるが、レーザー治療ありきになっている」とも語った。

 「医師の技術はさることながら、術前の病態の把握、適応を順守することが不可欠。しかし、残念ながら十分されていないのが現状」と、やはり懸念を示すのは、先進医療として国からPLDDが承認されている大阪医科大の整形外科講師、小坂理也医師(大阪府枚方市民病院整形外科主任部長)だ。

 小坂医師らが二〇〇四年に近畿地方の十二病院の協力を得て、レーザー治療を受けた後も状態が芳しくなく受診した患者を対象に行った調査では、適応や診断の誤りが原因と考えられた事例が実に七十四例中四十四例(59・5%)に上った。「脊柱(せきちゅう)管狭窄(きょうさく)症など鑑別が難しいケースもあるが、明らかに誤診の場合も」と憂う。

 「単なる腰痛ではレーザーの効果はない。下肢の神経症状があることなども基準の一つ」だが、なかなか守られていないという。

 同調査では、正しい診断・適応の下でも「効果がない」事例が14例あった。「問題なのはレーザー治療が100%でないことが十分説明されていない上、うまくいかなかった後のフォローが十分されていないこと」と小坂医師。成功率は100%でないから仕方ない、と医師から突き放されるケースもあるという。

 患者自身も安易に飛びつかず、椎間板ヘルニアについて知り、十分に治療法について説明を求めることが欠かせない。

  PLDD  椎間板ヘルニアの痛みの原因となる、背骨から飛び出した骨髄の中央に、レーザーを照射し穴を開け、骨髄の容積を減らすことで、神経根への圧迫を少なくする治療法。(イラスト参照)

 

この記事を印刷する