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【暮らし】

成年後見制度が危ない(下) 市民後見人

2008年2月27日

 成年後見制度がスタートして七年たった昨年三月現在、利用累計(申立件数)は十二万三千件。百七十万人の認知症患者に対して、十分の一にも達していないのが現状だ。後見人不足も指摘されるなか、「市民の力」に期待が集まっている。 (広川一人)

 「親族後見人の弊害が指摘されているが、やむにやまれぬ場合もある」

 品川区社会福祉協議会の斉藤修一品川成年後見センター室長は、親族後見の実情を説明する。

 子やきょうだい、親など本人の親族が後見人になることは、相続など財産上の利害が絡むため望ましくない。しかし、報酬を払わずにすむ親族を後見人にせざるを得ないケースは少なくないという。認知症の八十代の夫の後見人になっている七十代の妻を、同センターが後見監督人になって支える例がある。

 資力に応じ家庭裁判所が報酬を決める「法定後見」なら、利害関係のない弁護士や司法書士、社会福祉士など専門職後見人が付くこともできる。だが、月三万円が報酬の相場とされる民間専門職の「任意後見」では、経済的理由から契約をあきらめる人もいる。

 同制度の普及が進まないもうひとつの理由に、後見人不足もある。一九九五年から地域の権利擁護活動を行う同センターは、現在区内の高齢者など七十件(法定六十六、任意四)の後見人になっている。陣容は、六人の常勤職員と三十人の非常勤職員。後見監督人も担っており、増え続ける後見人需要に応えることは難しくなっているという。

 民間専門職後見人も手薄な状態は同じだ。司法書士らがつくる社団法人「成年後見センター・リーガルサポート」の松井秀樹専務理事は「リーガルの後見人候補者二千六百人の受任件数は六千件超。数が年々増えるため、新たな引き受けは難しくなってきた。専門職や親族に次ぐ第三の後見人として市民後見人は不可欠」と話す。

 市民後見人は制度当初からリーガルサポートが提唱していたもので、自治体やNPOなどに養成された一般市民による後見人をさす。公式の名称ではなく、東京都は、献身的精神の強い「社会貢献型後見人」と呼んでいる。都は二〇〇五年度から養成講座を開き、これまでに百七十三人が修了、町田市や品川区、板橋区などで計七人が後見人に選任されたところだ。

 松井専務理事は「市民後見人が選任され始めたので数は増えるだろう。しかし、市民後見人の監督を誰が担うかなど見えていない」と指摘する。保険加入などトラブル発生に備えた対策や、市民後見人をバックアップする体制などの問題もある。

 日本成年後見法学会の新井誠理事長(筑波大法科大学院教授)は「市民後見人活動の条件が整うまでは、トラブルの多い任意後見を避け、法定後見だけ扱った方がよい」と指摘する。財産詐取などの問題も起きている任意後見で不祥事を起こし、市民後見人の信頼を損なわないようにとの助言だ。

 また、高齢社会NGO連携協議会は、市民後見人を支えるNPOの設立を呼びかける。社会福祉協議会や家裁、地域包括支援センターなどの関係機関と連携し、活動を下支えする考えだ。

 専門職後見人が財産や暴力団絡みの困難な事案を扱い、市民後見人は日常の金銭管理のような安定した活動を扱うなど、活動範囲を分担させる考えも出ているが、関係者の共通認識はまだ醸成されていない。松井専務理事は「四月から裁判所や社会福祉協議会などと、市民後見人の活動の枠組みを協議する場を持ちたい」と話している。

 

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