世界に蔓延した「金融偽装」
サブプライム問題の本質は「システムとしての金融詐欺」
サブプライムローン問題の怖さは、世界の資本主義が互いに絡み合いながら、偽装を繰り返しつつ、「ババ抜きゲーム」に興じているという国際金融の本質が見えてしまったことである。
「NINJA(ニンジャ)ローン」――ノー・インカム(収入)、ノージョブ(仕事)、ノー・アセット(資産)――収入も仕事も資産もない貧乏人に、ローンを組ませて家を売りつけ、ITバブルの崩壊や9.11同時テロによる不況を、住宅バブルに飛ばして乗り切ろうとしたのが、米国の国家戦略だった。
だが、そんなリスキーなローン債権は誰も手元に置いておきたくない。だからまず住宅ローン債権をまとめて証券化、さらにその一部を取り出して、他のローン債権とともに債務担保証券に組み替えて販売した。
焦げつき必至の金融商品を組成、それを証券化で偽装して「不良品」だという正体を隠し、世界中で販売していたのだから詐欺だろう。「船場吉兆」や「赤福」と変わるところがない。ただ、金融商品はいずれもシステムとして形成されるために詐欺という断定はできない。
怪しいから備えは万全にする。偽装された証券に、格付け会社はトリプルAやダブルAという高格付けをつけ、モノラインという金融保証会社が保証、貸し倒れリスクに備えた。だがそれは、ウォール街の住人たちが考えたリスク飛ばしである。
貧乏人にサブプライムローンを組ませるのは住宅ローンブローカーである。こうしたブローカーは歩合でセールスマンを雇い、複数の住宅ローン会社の商品を顧客に売りつける。最初の2年が金利6%で、残り28年が十数%といった無茶なローンが長続きしないことは、住宅ローン会社にだってわかるが、資金の出し手は銀行なのだから、NINJAローンの販売に遠慮はなかった。
銀行が、住宅ローンの回収に最後まで気を抜くことができない時代なら、審査は厳格に行い妥協はしなかった。だが、証券化の普及は、審査を曖昧にした。500本、1000本といった単位の住宅ローン債権を、銀行は証券会社にまとめて渡し、証券会社はそれを証券化商品(債券)にして機関投資家などに販売した。
銀行にはBIS規制があって、債権はバランスシートから落とさねば新たな貸し付けができないので、証券化は銀行にとって必須の金融技術。そして組成する証券会社にとっては、確実に手数料を手にすることのできる格好の商品である。それは格付け会社やモノラインにとっても同じことで、最終顧客となる投資家も、カネ余りのなか投資先に困っていたので、リスクに応じてリターンを約束する証券化商品の存在はありがたかった。
だが肝心なことは、サブプライムローンが焦げつき必至の毒薬であること。だから「ババ抜きゲーム」なのだが、詐欺商品の販売責任は、売った人(住宅ローン会社)、貸した人(銀行)、組成した人(証券会社)、格付けした人(格付け会社)、保証した人(モノライン)のみんなに及ぶ。
つまりシステムとしての金融詐欺なので犯罪としては立件できない。それに、銀行や証券会社が、利回りの高さや保証に目くらましされ、さらには証券化の連続のなか、自分がオフバランスしたローン債権も含まれる可能性があるという複雑さの果て、投資家として債券を購入、被害者にもなるのだった。(後略)
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