高校日本史、なぜ今「必修化」? 元々なぜ必修でないのか2008年03月02日14時25分 神奈川県教育委員会が県立高校での「日本史必修化」を打ち出した。全国初の試みで、引地孝一教育長は「失われた日本人の心を取り返したい」と意気込む。なぜ今、必修化なのか。そもそも、高校で日本史が必修でないのはなぜなのか。 「教育長になるまで、日本史が選択と知らなかった。県立高校の生徒が自国の歴史を学ばずに卒業している現状が、心に引っかかっていた」 県庁で行政畑が長かった引地氏は今回の案に至った考えをこう話す。 高校の学習指導要領改訂案は文部科学省が今秋に発表予定だが、「世界史が必修で、日本史または地理のいずれかを履修する」という1994年度から続く枠組みは変わらない見通しだ。 これに対し、県教委の案は「神奈川の郷土史を学習する科目」「近現代史を総合的に学習する科目」を独自に新設し、日本史を履修しない場合はどちらかを習う、という内容。改訂指導要領の実施にあわせ2013年度までには始める方針だ。 県教委は「我が国と郷土を愛する」ことを盛り込んだ改正教育基本法を新設の理由に挙げ、「国際社会を生き抜く上で、我が国や郷土の歴史・伝統・文化への理解を深めることは不可欠」と説明。松沢成文・神奈川県知事も「愛国心や郷土愛が育まれることを期待したい」と語る。 地理をとった場合、独自科目をさらに学ばねばならないが、県教委は(1)県立全日制高校の約3割で日本史がすでに必修(2)昨年3月の卒業生の72%が日本史を履修した(3)新設科目は1〜2単位(1単位は50分授業35コマに相当)――などから、「大きな負担にはならない」という。 現場はどう受け止めているのか。 校長からは「学校の自由度が失われる」「(科目選択が自由なことが特徴の)単位制高校では実情にそぐわない」との意見が出ている。 県立高校で地理が必修なのは日本史の48校より多い72校だが、こうした学校がカリキュラムを見直し、地理を選ぶ生徒が減る可能性もある。 教える内容に懐疑的な人もいる。 神奈川県教委をめぐっては、君が代斉唱時に起立しない教職員名を各校に報告させていたことが問題となった。県個人情報保護審議会から「不適当」とする答申を受けながら、名前報告を継続する方針を2月4日に決めたばかり。竹田邦明・県高校教職員組合委員長は「必修化も同じ愛国教育の流れで出てきた、懸念すべき状況」と話す。 実は文科省は「これでは日本史必修とは言えない」という。郷土史や近現代史総合は「指導要領が定義する日本史ではない」からだ。ただし、「指導要領から逸脱しない限り、独自の必修科目は問題ない」。実際、高校での都道府県教委独自の必修科目としては、東京の「奉仕」と茨城の「道徳」の例がある。 そもそも、日本史はなぜ必修でないのか。 大学受験という観点からみると、世界史は必修なのに生徒から敬遠されがちで、大学入試センター試験でも日本史や地理より受験者が少ない。06年に全国の高校で発覚した履修漏れ問題でも、世界史の時間を使い、入試に出る他の教科を教えていた例が相次いだ。 しかも、日本史必修は、首都圏の1都3県の教育長や、石川、茨城、香川の各県議会などからも要望が相次いでいる。 それでも、必修にしない理由はこうだ。 地理と日本史の内容は小中学校でも扱うが、世界史はほとんどない。高校できちんと学ばないと、古代ギリシャやローマ、ルネサンス、イスラム圏の歴史を全く知らないまま普通教育を終えることになりかねない。 一方、高校は、全日制普通科に加え、職業学科、総合学科、単位制、定時制など多様な形態があり、必修を極力減らすのが基本方針。日本史や地理まで必修に加えるのは難しいというわけだ。 中央教育審議会は、指導要領改訂をめぐる答申で、「地理歴史の総合的な科目の検討」を求めている。とはいえ、具体的な内容の話し合いになると、3科目の専門家それぞれが「自分の分野こそ重要」と譲らず、話はなかなかまとまらない。 さて、独自科目の内容や教材は、新年度から検討が始まる。文科省の担当者は「特に近現代史総合に注目するが、2単位で学べることは限られる。内容設定は相当難しいはずだ」と語る。
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