不合格体験記--ある浪人生の受験体験記です。

「三浪」―それは予想外の結果でした。が、多くのことを学びました。
現実こそ美しい…そんな思いから書いています。

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1975年生まれ・早稲田大学第二文学部卒 http://jns.ixla.jp/users/tojitoji233/

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「集中力」について―①

2006年02月22日

　全項では話がアヤシイところまでいってしまった。申し訳ない。私は宗教家でも超能力者でもない。変わった受験体験を持つ一人の人間に過ぎない。が、たとえ普通の人間でも、その感情のメカニズムを分析してみると、〝アヤシイ〟回路の一つや二つはあるものだ。私がここで皆さんに受験体験を伝える際、そういった部分にも触れる必要がある。
　具体論が書かれた本――例えば「この参考書を使って、誰々先生の講義を受ければ合格する」というような――は、すでにたくさんある。だからこそ私は、受験生活に根ざす心理的な部分にスポットを当てていきたい。

　さて、それでは集中力について書こう。
　「集中力」というものは、実に不思議なものだ。集中力を発揮すれば、自分の能力を超えた作業が可能になる。そういう意味では、一種の超能力といえなくもない。
　あなたのまわりに、こんな人がいないだろうか。――ぐうたらな性格で、遅刻も多く、髪はぼさぼさで、服装も乱れている。しかし不思議と、成績は悪くないし、友達も多い――そんな人が。
　このような人は、普段はずぼらでも、やるべき時はきっちりとやる人だ。その原動力となるのは、「集中力」である。
　ずぼらな人でも、要所要所で集中力を発揮すれば、きっちりと物事を行うことができるのだ。だから、上記の人は、たとえ遅刻が多くても、大事な用事だけは絶対に遅刻しない。また、重要な宿題だけはきっちりとやってくる。　こういうタイプの人は、「自分」というものを良く知っているのだ。つまり、自分が本来、怠惰であることを認識し、それは「仕方ない」とあきらめ、その代わり重要な場面では一気に集中力を発揮するわけだ。
　もちろん、これはこのタイプの人だけに許された特権である。普通の人がこの方針で生活しても、決して上手くはいかない。普通の人は、「細かい集中力」を、日常的に発揮するべきだ。要するに、「普段からきちっとした方がいい」ということだ。

　では、「細かい集中力」は、どうやったら得られるだろうか。それにはいくつかコツがあるが、ここではその中のひとつについて触れよう。

　それは、「恒常的に行うこと」である。小さな集中力でもいいから、常に発揮する習慣を身につけるのだ。人間というものは、習慣になったものに関しては、あまり苦痛を感じない。
　例えば、「部屋を整理された状態に保っておく」――これも、「細かい集中力」がもたらすものである。「部屋の整理は時間があるときにやろう」などと言っているようでは、いつまでたっても部屋は汚いままだ。いつも、ちょっとした整理を行う習慣をつけておけば、部屋は綺麗なまま保たれるし、精神的にもすっきりとする。部屋が乱れていると、心まで乱れてしまうものだ。
　もちろん、整理するのは部屋だけにとどまらない。身の回りのあらゆることに関していつも「細かい集中力」を発揮せねばならない。義理のメール、手紙もきっちり出しておく、伸びた髪を定期的に切りに行く、買わなければ行けないものは何かのついでに買っておく、等々。
　いくら受験生だからといって、生活全てが受験一色では有り得ない。日常の雑事をため込んでおくと、心の中がどんよりとしてくる。そして結局、勉強にも集中できなくなってしまうのだ。
　だが、生活を「細かい集中力の連続」で彩っておけば、勉強もその中のひとつとして、特に身構えることなく、簡単に「取りかかる」ことができるのだ。
　受験勉強など楽なものだ。親の保護のもとに行われるわけだし、肉体的苦痛もない。
　オリンピックを目指す選手を見てみるがいい。そもそもメダルを取れるかどうかも分からない。それどころか、出場できるかどうかすら分からない。企業のサポートのある選手ならまだしも、マイナースポーツなら、文字通り、独力でやるしかない。そんな中で、苦痛のともなうトレーニングをこなさなければならないのだ。

　ちなみに、そんな日々を過ごしてきた、あるアマチュア選手について書かれた本を紹介しよう。その選手は、カヌーのオリンピック日本代表に選ばれた。そこに至る経緯が、とても面白い。また、代表に選ばれた後、どうなったか。その部分も興味深い。これを読めば、今、あなたが置かれている状況について、冷静になれるに違いない。
　この話は、本当に馬鹿な話だ。馬鹿で無鉄砲だけど計画的な男の話だ。悲壮感でいっぱいだが、同時に悲壮感がないともいえる男の話だ。人生の悩みを、笑い飛ばせる話だ。

「たった一人のオリンピック」
（山際淳司「スローカーブをもう一球」角川文庫―に収録）

　これが題名だ。短編なのですぐに読める。勉強の合間の息抜きになるはずだ。
　そう、あなたの受験生活も、将来、誰かとの雑談の中の、ほんの「息抜きバナシ」にすぎない。悩みとはそうしたものだ。今は必死でもがいていても、その時期を通過して年月が経つと、冷静に見ることができるようになる。
　私も、受験当時は死にたいくらい悩んだこともあった。だが今、皆さんが受験勉強の合間に、私の受験体験記を「息抜きバナシ」として楽しんでくれているのを想像すると、幸福な気持ちになる。
　今、もしかしたら、悩みに負けて自殺を考えたり、自暴自棄になっている人がいないだろうか。もしそうなら、馬鹿な考えは起こさないことだ。あなたの体験は、いつかいい思い出になるはずだ。そのときまで、今の体験を熟成させようではないか。

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運というものについて

2006年02月19日

　占いが流行しているらしい。もっとも、必ず当たるというわけではないらしいが。
　私は、占いを信じているわけではない。しかし、「運」は存在すると思っている。
　社会は、機械ではない。生きている。社会構造は常に動き、変化している。その中で、人間は構成物の役割を果たす。
　しかし、ただの構成物ではない。人間には「感情」がある。その感情は、「念」となって様々な場所に跡を残す。
　単純なことを言えば、あなたが教室で、友達と二人きりで談笑している場面のことを考えてみよう。話が終わり、友達が、教室から去る。だが、それだけでは、本当に「去った」ことにはならない。わずかながら、友達の体臭や、香水の香りや、体温の暖かみが、椅子やその周辺に残っているからだ。この全てが風に流された後、初めて「去った」と言える。
　もちろん、この「残像」は、数分しかもたない。しかし、これと同じ現象が、教室全体で、クラス全員によって毎日もたらされていることを想像してみてほしい。全員の体臭・体温となると、ひとりで作る残像とは比べものにならないくらい、密度が濃い。それが一年間、続くのである。自然、教室全体に、「何か」が刻まれるはずだ。
　やがてそれは、学校の全てのクラスの「残像」と混ざり、大きなものになっていく。そのひとつの例が、「校風」であろう。そしてその「校風」が年月を重ねれば、「伝統」になる。さらに、その伝統はその土地柄と混ざって、濃さを増していく。こうなれば、人間一人の力でくつがえすことはできないほどの、「大きな残像」になる。
　このような現象が、世界各地で起こっていることを想像してみて欲しい。各所の「大きな残像」が、風に運ばれて混ざり合ってゆく。これはもう、人間一人どころか、国家をあげてもくつがえすことは出来ないであろう。

　この「大きな残像」こそ、俗に「運」と呼ばれるものではないだろうか。

　「運をつかむ」とは、この「残像の流れ」に上手く乗っかりながら、自分の夢を叶えていくことを指すのかもしれない。「残像の流れ」に逆らって他人を出し抜いたとしても、一時の成功しか得られない。すぐに流れからはじき出され、墜ちてしまうからだ。そんな気がする。
　社会の流れに合わせることは、面倒だ。付き合い、義理、等々。だが、あなた自身も、普段はその恩恵を受けて暮らしているはずなのだ。見えないところで、誰かがあなたの尻ぬぐいをしてくれている。それを知らずに、あなたは「自分の勉強のため」「夢のため」という理由で、不義理を働く。
　これでは、いつまでたっても「運」をつかめるはずがない。

　普段から、「残像の流れ」に逆らっている者が、試験本番のときだけそれをつかもうとしても、難しいのだ。

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その夢を大切にしてほしい

2006年02月17日

　前回の話と関連することについて書こう。
　受験生は、若い。三浪したとしても、たかだか二十一だ。
　若いということはとても素晴らしいことである。これ以上の素晴らしいことは、この世界に存在しないかもしれない。なぜ素晴らしいか。それは、未来があるからである。
　若い時期を過ぎ、大人になっている人はたくさんいる。その人は、尊敬すべき人かもしれない。愛妻家かもしれない。財力もあるかもしれない。
　だが、しょせん、それは「確定した事実」に過ぎない。若者の持つ、可能性という無限の世界には、とうてい叶うはずないのだ。
　若者は、夢を見るものだ。そこで私は提案したい。「その夢を大切にしてみてはどうか」と。
　もしかしたらそれは、ものすごく下らないことかもしれない。例えば「好きなあの人と付き合いたい」などのように。
　しかし、それはそれでいいと思う。好きな人がいるなら、その人に気に入ってもらえるように、プレゼントをあげたり、トークの研究をしてみればいい。
　極端なことをいえば、別に大学に行かなくたっていい。浪人してはいるが、本当は格闘家になりたいのだ、というのであれば、受験勉強をやめてジムに入門するのもいい。

　もしかして、夢にチャレンジしても、失敗するかもしれない。だが、それはそれで良い経験になるはずだ。
　人生に、無駄なことなどありはしない。特に、若い時期に何かに挑戦したことは、将来、必ず何かの役に立つ。
　私が早稲田を目指して三年間も浪人したことは、大学入学当初はコンプレックスであった。新入生同士で、年齢についての話題が出るのが辛かった。たいてい、私は皆より年上であった。そのことで変に敬語を使われたこともあったし、いまいちクラスの仲間にとけ込めないこともあった。
　だが、そうしたことも今では笑い話である。今でも付き合いのある人はいるし、付き合いのない人に関しても、その人のことを思い出して色々と考え込んだりする。
　そうしたことも、私が、三年間も浪人したことの代償である。が、その代償は、案外甘い味だ。かめばかむほど味が出る、というもやつかもしれない。

　また、高校生のころに勉強した、受験に使わない科目――文系の私でいえば数学、化学、生物、といった教科が、三十を越した今になって、ふと、役に立っていることを実感することがある。例えばこうして文章を書いたりするのに、生物の知識を使っていたりする。
　私は理数系の科目が大の苦手であった。ただ、投げ出すということはなかった。
　高校生の頃は、理数系の科目がネックになり、毎年毎年、進級の危機にさらされた。定期テストで赤点を取り、それだけならいいが、追試を受けてさえ、規定点数に達しなかったこともあった。
　しかし、そんなときでも、先生に無理に頼み込んだ。「なんとか進級のチャンスをくれないか」と。今でもよく覚えている。それは生物の先生であった。その時、生物の先生が課したのは、生物書を一冊まるまるノートに写してこい、というものであった。私は、先生に指定されたその本を、全部写した。
　こんな、馬鹿みたいなことが、今になって役立っている。他にも無駄なことは色々とやってきたが、私のこれからの人生で、それらも何らかの形で人生を彩ってくれそうな気がする。

　受験生の皆さんは、今、どんな夢を見ているだろうか。
　諦めるより、挑戦した方が良い。私はそう思う。

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自分で調べることの大切さ

2006年02月16日

　では、引き続きいくつか抽象語を羅列してみよう。意味は敢えて書かない。各自、調べてほしい。自分で調べることは、とても良いことなのだ。

　----------

「帰属意識」「モラトリアム」「絶対・相対」「顕在」「造詣（ぞうけい）」「通過儀礼」「普遍」「自我」「属性」「美学」「共生」「錯綜（さくそう）」「伝播」「外延」「差異」「心的・物的」「魅惑」「民族・民俗」「捨象（しゃしょう）」「萌芽（ほうが）」「心象・表象」「叙情・叙景・叙事」「理性・悟性（＝ロゴス・パトス）」「カオス」「科学的・非科学的」

　----------

　「調べる暇なんてない」と言うかもしれないが、これはとても大切なことだ。
　自分で調べることの良さを書こう。これは、「不本意な大学へ入学せざるを得なくなったとき」にも重要になることだ。少し遠回りしながら書くが、すぐに話はそこへ戻るので、どうか話にお付き合いいただきたい。

　現代社会は情報が氾濫し、物事を調べるのに手間はかからない。勉強の仕方についても、様々な方法論が提唱されている。だが、その代わり全てが没個性になってしまった。
　例えば音楽をみてみよう。
　音楽は、表現である。表現である限り、本来、それぞれの音楽家の個性が出るものだ。しかし、情報が氾濫しはじめてからは、個性から離れた音楽作品がはびこるようになってしまった。なぜか。
　それは、「方法論」が確立されてしまったからである。音楽理論、奏法理論、練習法、等々。
　だが、情報化時代以前の音楽家たちは情報に頼ることができなかった。特に、エレキギターのような、現代的な楽器の場合は歴史も浅く、教則本も無かった。

　例えば、一九六○年代に、ジミ・ヘンドリックスというギタリストがいた（若くして亡くなった）。
　彼の（エレキ）ギターの弾き方は、「普通」ではない。「普通」とは、今、ギター教則本に書かれているようなことだ。
　昔は教則本などないから、「エレキギター」というものをどう扱えば良いのか、分からない。だから、自分で試行錯誤して「とにかくやってみる」しかなかった。その結果、奇怪な弾き方をする人が続出した。ジミ・ヘンドリックスもその中の一人である。

　彼の場合、まず指の使い方が「普通」と全く違う。親指が長いこともあり、常人にはできないポジションで弦を押さえる。また、彼は右利き用のギターを左で使っている。つまり、道具の使い方そのものを、最初から間違えているのだ。
　しかし、知ってか知らずか、彼は間違えたまま弾き続けた。その結果、奇怪なギタースタイルが出来上がった。彼の演奏は、誰もコピーできないと言われている。当たり前だ。楽譜におこせないような、奇怪な旋律なのだから。

　「奇怪なスタイル」について、もうひとつ例を出そう。
　パソコン時代の今となっては、「ブラインドタッチ」は出来て当たり前だ。そのための書籍もあるし、練習用ソフトも多数、売られている。
　だが、パソコンが珍しかった時代は、そのようなものはあまり無かった。そのため、奇怪なやり方も行われていた。
　例えば、人差し指だけでキーボードを叩く、というのがそれだ。昔は、そのやり方で、異常な速さで文字を打ち込む人がいたらしい。普通のやり方を知ることなく、間違ったやり方で覚えてしまったのだろう。
　だが、たとえ「間違い」でも、極めれば立派な「スタイル」である。道具の使い方からして違えば、普通の人と発想が違ってくるのも当然であろう。今でもそのスタイルで貫き通している人は、ユニークな発想の持ち主であるに違いない。

　以上のことからも分かる通り、情報に頼れない時代の人は、独自性を持っている。独自性があれば、余計な物差しで自分を計られることなく、のびのびと生きることができる。
　便利なものばかり追いかけても、結局は自分を不幸にするだけだ。便利な世の中だからこそ、不便は貴重である。自分で調べる機会があったら、面倒がらずに調べよう。

　さて、話はさらに脱線する。
　あなたの好きな音楽は、どんなものだろうか。若いあなたは、普通に、有線やテレビで流れる音楽が好きだとは思う。
　もちろん、そのこと自体は、何も悪くはない。だが、音楽は、それだけではない。メディアで流れないような、無名のものもあるし、昔の作品もある。しかしメディアは「売れそうな」「最近の」音楽ばかり流すのだ。
　これは、日本が資本主義社会である限り、仕方のないことだ。必死でプロモーションをするのは、新しい作品の制作者である。古いものは、制作者が亡くなっていたり、固定ファンがついているなどの理由で、敢えて売り込んだりはしない。
　また、最近の作品でも、マイナーな路線のものは、固定ファン向けであったり、制作者本人の芸術的な※カタルシスを得るために作られていたりるので、これも敢えてプロモーションはしない。
　自然、若いあなたが耳にする作品は、「売れそうな」「最近の」作品だけになってしまうのだ。

　だが、私は提案したい。そのように受け身になるのではなく、積極的に自分の聴くべき作品を発掘することを。
　例えばレンタル屋で一気に二十枚くらい借りてみるのもいい。また、音楽マニアの友達にご飯でもおごって、代わりにおすすめのアルバムを借りてみるのもいい。それと、ラジオ番組をチェックするのもいいだろう。テレビと違って、ラジオはマイナーなものも多く流す。
　もちろん、音楽だけではない。映画もそうだ。
　メジャーな配給会社によるものだけでなく、アングラ系も見たり、また昔の名作をチェックするのもいいだろう。それだけでなく、レンタル屋の店員さんと親しくなって、マイナーで面白いものを紹介してもらうのもいいだろう。

　さらに、これは音楽・映画だけにとどまらない。社会情勢に関しても、ニュースで報道されているようなものだけでなく、メディアに出てこないような社会問題に注目してみるのも大事だ。
　イラクへ安易に行って、日本中からバッシングされた人たちがいる。この人たちが真剣だったか、そうでなかったかは私には分からない。が、少なくとも世論は、「真剣じゃない」と受け取ったのだろう。
　ニュースになっている場所に行くことしか思い浮かばないのは、「カッコ悪い」ことだ。それよりも、自分独自に社会問題を発見して、それを真剣に追求することの方が「カッコいい」。
　だからあなたには、色々なことを自分独自に調べて欲しいと思う。

　なぜ、私が以上のことを提案したか書こう。
　それは、「受け身の自分から脱却してほしい」からだ。
　若い時期は、判断力もなく、また社会との関わりも少ないため、情報に対して受け身になりがちである。
　一方、現代は、情報過多時代である。この膨大な情報の波に押し流され、若者は一種の洗脳状態に陥っている。そのため、「一部の価値観」だけを崇拝して、その価値観にハマらない自分を嫌悪し、ひどい場合になると自殺してしまうこともある。
　「一部の価値観」とは何か。
　例えば、学歴主義がそれだ。「偏差値の高い大学に入れなかったら、人生の行く先は暗い」、そう考えている人がいる。もしあなたがそうなら、発想を変えよう。
　この一年、一生懸命頑張って、自分を受け入れてくれた大学が、あなたの母校である。無名かもしれない。あるいは、有名でも、嫌いな大学かもしれない。
　しかし、そんなことは関係ない。嫌いな大学なら、好きになるように努力してみることだ。先入観を取り去って見てみれば、良い部分がたくさんあるのが分かるはずだ。自分から心を開いて環境にふれあおうともせずに、はじめから嫌いだと決めつけてはいけない。もちろん、それでも好きにはなれなかった、ということもあるだろう。だが、大学を卒業して何年か経てば、きっとその大学のことを懐かしく思い出すはずである。思い出したときに、たくさんの思い出が蘇るよう、心を開いておいた方がいい。
　懐かしく思い出すことができれば、それは未来につながる。が、忌まわしい過去だと嫌っていれば、いつまでたっても自分は成長しないのだ。

※カタルシス…心の中にある鬱憤などを浄化し、快感を得ること。

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抽象語について③

2006年02月14日

　ここでもひとつ、抽象語を紹介しよう。

　「洞察」

　これは、物事の本質を見抜くという意味である。
　この世の様々なものには、飾りがつけられている。だから、洞察力がないと、この飾りに目を奪われてしまう。
　「一見、○○なもの」という言い方があるが、「洞察」というものは、その「一見」の部分を通り越して、大切となる核の部分に注目することを言う。
　例えば、「一見、華やかな大学」を見てみよう。
　偏差値も高く、都会にあり、有名人を多く輩出しているような大学がそれだ。それは今、あなたが目指している大学かもしれない。
　だが、その大学は本当に、あなたにとって「良い」大学だろうか。
　たかが大学に入るのに、二浪、三浪、四浪、と重ねる人がいる。私もその中の一人だ。
　私は、時々思うことがある。「一浪した時点で受かった、國學院大学に行っても良かったのではないか」と。國學院大學といえば、文学・歴史研究の権威である。それは私のやりたいことと一致している。立地条件も申し分ない。また、他に受かった大学――日本大学にしたってそうだ。優秀な人材を多く輩出しており、歴史も古く、そしてなんといっても規模が大きい。私という小さな一個の人間が、その大規模な大学でいくら多くを学ぼうとしても、とても全てを学ぶことはできない。それほどの大学だ。
　もし、私が一浪時点に戻ったとしたら、早稲田は諦め、このどちらかの大学に行くことを決めたであろう。若い私は、「本質」を見抜くことができなかった。人生は、大学で決まるわけではない。一浪時に一生懸命、受験勉強してやっと合格した大学である。今思うととても愛おしい。こんな私を、受け入れてくれる大学があるなら、そこにいけば良かったと思っている。
　しかし、私は結果的に三浪し、あくまで早稲田にこだわった。それはそれで良かったと思っている。少なくとも、「最後までやりとげた」という自信にはなった。学歴的には、三年間も浪人してしまっているので、誇れはしない。だが、こうして、今受験している皆さんに、思い出話のひとつとして語ることができるのも、三年間、浪人したおかげだ。
　そう、所詮、人生なんていうものは、人生が終わりかけるころに見る、プレイバックの映像のためにあるに過ぎない。死にかけて病床にあるときに、若い連中に酒を所望し、病（やまい）をおしてちびちびと酒を飲む。そのときに、どれだけ面白い思い出話を語れるか、これでその人の価値が決まるものだ。
　「面白い思い出話」とは、なにも、成功した話ばかりではない。失敗したことも、十分に面白い。いや、むしろ失敗したからこそ、面白いのかもしれない。その失敗話は、次の世代の糧になる。そうやって、人類は繁栄していくのだ。

　私の大好きな国木田独歩の作品の中に、「二人の旅人」という詩がある。
　この詩は、人生の本質の部分に注目している。内容を要約すると

　――ある旅人が、冬の山で倒れていた。しかし、もう一人の旅人がそこを通りかかり、薬を与えるなどして、助けてやった。先の旅人は感動し、「とても感謝しています。家に着いたらこのことを世の人々へ伝え、それだけでなく、書物に残して子孫へ代々、語り継がせたいと思います」と述べた。だが、結局は、その二人は旅の途中で、谷底へ落ちてしまった。――

　というものだ。独歩は、最後にこうくくっている。

　「千秋万古　遂にこの二人が行方を知る者なく
まして一人の旅人が情けの光をや」

と。つまり、「この二人の行方は誰も知らない。まして、一人の旅人が情けをかけた美談を、どうして世の人が知ることができようか」というわけだ。

　よく、テレビ番組で、美談を紹介していることがある。それはそれで美しいと思う。だが、不思議なことに、人々へ伝わってしまった瞬間、美しさが少しだけ、すり減ってしまうのだ。
　なぜだろう。
　特に芸能人の場合、自分の名前を売らなければならない。そのためには、利用できることは利用する。例えば病気の子供を見舞いにいって、サインしてあげたことなども、その「利用」の中のひとつになるのだ。
　むろんこのことで、その芸能人を責めることはできない。芸能人は、人に自分の生き様を見せることが仕事だ。　人気商売であるがゆえに競争も激しく、利用できるものを利用しないのは、むしろ職務怠慢である。
　しかし、私は、どこか、一抹の寂しさを感じてしまう。
　日本という国は、よくできた国だと思う。しかし、なんでもかんでも「売る」ことに傾いてしまった結果、日本から「美しい」ものが駆逐されてしまっている。「カネになることこそが良い、多くの人に知られることこそが良い」。考えてみれば当然かもしれない。毎日毎日、カネを使って様々なものを買い、メディアでは多くの情報が垂れ流されている。その情報をもらすまいと人々は躍起になり、情報を見逃した者は「時代遅れ」として馬鹿にされてしまう。
　しかし、少し前のことを思い出してみて欲しい。流行った音楽、流行ったファッション、流行った言葉…
　それらを見て、「何て恥ずかしいものなんだろう」と感じることはないだろうか。つまり、「飾り」の部分に踊らされていた自分に気付くのだ。
　「飾り」ではなく、本質を見抜ける力があれば、時代に流されることもない。常に自分を保ち、友人を大切にし、良い心掛けをもって暮らせるはずだ。もちろん、やむをえず、この世に流されなければならない状況もあるにはある。ファッションは、ある程度、時代に合わせなければならない。
　だが、それを理由に「本質」を見誤るのは良くない。残念ながら、私達は飾りだらけの世の中に住んでいるが、その「飾り」部分は、社会生活を営んでいく上で必要な部分だ。それはそれとして、世の中の流れに上手く流されつつ、常に本質を見失わないようにしたいものである。

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抽象語について②

2006年02月08日

　前項に続き、抽象語を紹介する

　「幽玄」

　これは、日本の文化の特徴である「奥ゆかしさ」を表した言葉だ。
　ほとんどの国は、豪華さを文化の特徴としている。例えば、アメリカの文化を思い浮かべてみると良い。星がたくさん並んだ国旗、大きな家、広い庭。パブに行けば大音量でバンドが演奏している。
　もちろん欧米だけではない。中国の寺院を思い浮かべてみれば、屋根がきゅん、と跳ねたようにカーブしており、まるで自己主張しているかのような格好である。踊りも、飛んだり跳ねたりと、忙しい。
　一方、日本は、能を思い浮かべてもらえれば分かる通り、静かで、動きが少ない。また、庭は狭い。
　しかし、その狭い庭では、石や砂利を使って大自然の模倣体を作り、独自の感覚を醸し出している。

　石庭で言えば――中国では、わざわざ石庭を作って鑑賞しはしない。なぜなら、本物の大自然があるからだ。雄大な山脈、霧の立ちこめる大河、力強い崖の連なり、等々。
　しかし、日本には、それらはない。だから、石庭を作って、大自然を想像するのである。
　ここで、「想像」という言葉が出てきた。
　そう、「奥ゆかしさ」と「想像」には、大きな関連があるのだ。
　何かを表現するときに、そのことを言葉で言いつくしてしまう方法も、たしかにある。だが、無言の強さがあるということも同時に知るべきだ。何も言わないから、相手は色々なことを想像する。想像というものは無限である。目に見える大自然よりも広大なのだ。

　また、長谷川等伯の絵に、「松林図屏風」というものがある（長谷川等伯は桃山期に活躍した画家）。
　この作品は、水墨画であるがゆえに、シンプルな色合いである。このシンプルさこそが、日本風の奥ゆかしさである。さらに、その構図も圧巻だ。
　その絵には、木が何本か描かれているだけだ。真っ白な空間が多く、一見すると手抜きに見える。

　しかし、もしここに色をつけてしまうと、その絵の世界はその色で決定してしまう。が、空白だからこそ、人間の想像がそこに入り込むのだ。
　想像は無限である。よって、絵の世界も無限に広がる。

　「奥ゆかしい」ということが、どれだけ芸術的に高いレベルにあるか、これでご理解いただけただろうか。もちろん、芸術性だけではない。人間性として見たときも、奥ゆかしい人間は、高い知性と深みをもった、魅力的な人物なのだ。
　皆さんも、「奥ゆかしさ」「幽玄」といったことを常に意識してほしい。そうすれば、いつか必ず、人間的に魅力あふれる人物になれる。そして、幸福も、同時にもたらされるのである。

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抽象語について①

2006年02月01日

　大学受験という観点にとどまらず、これから知的な人物へと成長していく上で参考になるであろう「抽象語」をいくつかご紹介する。まずはひとつ目。

　「デカダンス」

　この日本語訳は、「退廃（たいはい）」である。が、実は「退廃」という言葉は江戸期以前には無かった。「抽象語」の中には、このように、明治維新後にできた言葉も少なくない。
　とはいえ、これは欧米には既にあった言葉である。維新後、日本人は、欧米の文献を読みあさった。その際に問題となったのが、多くの「抽象語」が日本語に無かったことである。つまり、訳そうとしても、訳せないのだ。
　そこで、どうしても訳せないものは、漢字熟語の形式で新しく作りだしたり、また「外来語」という形で、カタカナにしただけでそのまま使用したりした。
　この「デカダンス」という言葉は、外来語である。そして、その訳である「退廃」は強引に作り出した熟語である。

　ここで少し、話を脱線させる。
　最近、欧米の映画や音楽を、邦題をつけずにそのままカタカナで表すケースが多くなっている。
　もちろん、そういう手法は定番であり、別に悪いわけではないのだが、あまりに氾濫しすぎているような気がする。

　「コラテラル・ダメージ」
　「フライトプラン」

　この文字面（もじづら）を見て、どこか変な感じを抱いてしまうのは私だけだろうか。英語教育が重視されてきていることも影響しているのだろう。これは時代の流れかもしれないが、同時に、母国語の大切さが忘れられている。この風潮は、良くないと思う。ただ欧米のものを取り入れるだけで創造性がない。まさに、「デカダンス」である。

　たしかに、明治維新直後の日本人も、欧米の文化を積極的に取り入れはしたが、その時代の風潮は決して「デカダンス」ではなかったのだ。それは「黎明（れいめい）」、つまり文化の夜明けであった。
　文献から学びつつ、新しい何かを作りだそうとする気風に満ちあふれていた。

　江戸期以前の日本人は、抽象語もそれほど多くは知らなかったし、そういう意味では、知性は低く、野蛮な存在であったかもしれない。だが文明は栄えていなくとも、「わび・さび」に代表されるような、奥ゆかしく、高い精神性を持ち合わせていた。
　明治維新直後は、この高い精神性と、欧米の文明がうまく混ざり、良いバランスを持った文化が築かれていた。

　だが、大正になると「デカダンス」の風潮へと進み、さらに太平洋戦争の時期になると、軍国化が進み、文化的にも墜ちていった。もちろん、精神も堕落した。
　それが、敗戦直後になると、ふたたび「デカダンス」から抜けだし、戦争の反省から学んだ精神と、アメリカ的な自由な先進文化と混ざり、黎明の時期を迎えた。
　日本語も大切にされており、ビートルズやローリングストーンズの曲名を見れば分かるが、絶妙な邦題が多く作られていた。

　しかし、時代は進み、文明の発達に日本人が頼るようになり、「考える」ということをしなくなってしまった。
　それゆえ、小説を読むことなく、漫画へ走り、映画や音楽に関しても、制作者の芸術性を見抜こうとせずに、ただ上っ面の仕掛けにそのまま踊らされている。
　音楽で言えば、ここは「サビ」です、と分からせるために、サビになると色々な音を入れて盛り上げ、「ここは泣きどころ」です、という箇所で、「泣き」の言葉をふんだんに入れてそれを煽る。リスナーは、その仕掛けに簡単にはまってしまう、というわけだ。

　だが、やはり映画も音楽も、文学も、表面だけを追うのではなく、自分の頭で考えていかないと、知性が低くなっていくばかりだ。江戸期のように、「わび・さび」の精神が失われている今、日本人から「知性」が失われたら人間以前の、堕落した生き物に成り下がってしまう。

　「考える」とは、例えば次のようなことだ。
　黒澤明の「酔いどれ天使」で、三船敏郎ふんする若者が、悲しい出来事があった日に、街を歩くシーンがある。この場合、このシーンを煽ろうと思ったら、普通は悲しい音楽を流すはずだ。
　だが、この映画では、軽快で、楽しい音楽が流れるのである。

　このシーンは、知性を用いずに見ると、そのミスマッチに気持ち悪くなるだろう。
　だが、しっかりと頭を働かせて、制作者の意図を読み取ろうとしながら見ると、そのミスマッチさが逆に良い効果をもたらしていることが分かるはずだ。そして、制作者の意図を超えて、様々な想像をする。だから深い味わいを感じることができる。
　文化に触れる、とはこういうことなのだ。もちろん、何も考えずにどんちゃん騒ぎしたり、笑ったり泣いたりしたい時もあるだろう。しかし、その一方で、高い知性を持って世の中を洞察しないと、日本という国は滅びてしまう。

　まとめると、今、日本人に必要なのは、江戸以前に持っていた高い精神性と、明治維新以後に得た高い知性を、取り戻すことである。

　さて、話がだいぶそれた。「デカダンス」に戻ろう。
　「デカダンス＝退廃」とは、文化が進みすぎて停滞し、風紀が乱れることを指す。その原因は、進みすぎた文化に安住して、人々が考えることをしなくなることにある。

　「デカダンス」

　この抽象語を、しっかりと覚えておこう。

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知性をつける方法

2006年01月31日

　では、知性をつける方法について書こう。

　それは「背伸びをする」ことだ。
　つまり意識して、難しいことを色々と学んでみるのである。特に、「抽象語」を学ぶといい。抽象語は具対語と違って目に見えないので、理解が難しい。
　例えば、「原因」という抽象語について考えてみよう。
　もし「原因」という言葉を知らなかったら、人間は、その言葉が表す概念を簡単には理解できない。だが、「原因」という言葉を知っていれば、「原因を探る」という発想も浮かぶし、さらに、「問題を解決する」というところにまで思考は広がっていく。

　「原因」も「問題」も、抽象語だ。このような「抽象語」を、どれだけ広く、深く、理解しているかが、思考力が優れているかどうかの分かれ目になる。
　当然、「車」「人」「りんご」「みかん」といった「具体語」くらいしか知らない、というのでは、思考のレベルとしては、まだ低い。
　それよりも、形にない「概念」をどれだけ理解しているかが重要なのだ。受験生は、具体語よりも、抽象語を、多く頭脳にインプットしていこう。「原因」という抽象語は常識レベルのものだが、大学受験レベルの抽象語なら、頭の中を刺激してくれるようなものがたくさんある。

　そのような難しい抽象語を学ぶには、小論文や、現代文に必要な用語をまとめた本が有効だ。「聞いたことはあるが、意味は知らない」といった言葉が、たくさん載っているし、解説もつけてくれている。受験生だけでなく、社会人にとっても勉強になるから、一生モノの買い物になるだろう。闇雲に暗記科目ばかりに力を入れるのではなく、こういった「本筋」を見失わないようにしよう。

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頭が悪い？―しかし、「知性」ならつくはず

2006年01月30日

　前置きしよう。
　「頭が悪い」――この字面はイメージが良くはないが、本当のところは別に大問題ではない。現に、世の中の８０パーセント以上の人は、頭が悪い人なのだ。つまり、記憶の天才でもなければ、ＩＱ的天才でもない。
　一昔前なら、このことを気にする人はいなかったが、最近は、「頭が良いor悪い」で人間を分ける傾向がある。頭が良くなるための本、ゲームなどが世の中に氾濫している。だから人々が気にしてしまうのだ。
　しかし、それは方向違いである。目指すべきは、「頭が良い人」より「知性的な人」だ。

　さて、前置きは終わりにしよう。既述のテーマ「慣れること」に加えて、「知性をつけること」について書きたい。もちろん、これは、試験を突破するために重要なことである。
　「知性的な人」を、大学は真に求めているということは既述した。ならば、本当に、自分がそのような人物になってみることが、本筋である。試験問題自体も、「知性的」であれば解ける問題がたくさんある。
　「知性的である」ということは、判断力に優れているということだ。正しい判断を下せる、ということは、その人間が優秀であることを意味する。
　会社の場合を例にとれば、ただ闇雲に利益重視で決定を下す者は、あまり優秀とはいえない。それよりも目先の利益にとらわれず、また社会的な意義も十分に考慮したうえで、色々な決定を下せる人物が、優秀といえる。

　試験問題も、「判断」の連続だ。
　五つある選択肢から、どれを正解として選ぶか。そんな些細なことも、立派な「判断」のひとつである。
　では、なぜ知性的であれば、正答を導き出せるのだろうか。それは、「知性的なこと」とは、「立派な社会人」であることを意味するからである。その説明をしよう。
　実は大学は、「立派な社会人」の予備軍を試験で探しているのである。
　「立派な社会人」の像は、もしかしたら、十代の若者は嫌うかもしれない。若者とは、いつの時代も、以下のようなことを言うものだ。

　「常識にとらわれたくない」
　「自由に生きたい」
　「サラリーマンは、情けない」

　これらのことは、私自身もかつて思っていたことなので、よく分かる。だが、こういう考えは、若いうちしか持てないことも、私は後に知った。
　結局、十代の若者は、誰かに守られた状態で暮らしているのだ。と同時に、そのことに気付かない。だから、破天荒な意見も、気兼ねすることなく口に出せる。
　しかし、大人になっても、同じような考えを持っていては、まともに生きていくことは出来ない。
　もちろん、立派な大人の中にも、一見、若者のような破天荒さを持った人は、いる。だが、そういう人は、れっきとした社会人としての考えを持った上で、破天荒な行動に出ている、ということを知るべきだ。

　さて、「知性をつけること」を試験対策の意味から見てみたい。
　例えば、英語長文問題は、出題されるテーマが社会問題などの、いかにも「討論番組で知識人が話していそうな」ものである。卑近ではあるが、こういう感じが、「知性的なこと」だとまずは理解してもらいたい。
　もちろん、例外はある。童話や小説などの、突飛なテーマの文章が出されることもある。
　しかし、それらの場合は、見た目は俗的に見えるかもしれないが、そういう文章を読ませることで、逆に、いかにその受験生が「大人」であるか、見抜こうとする大学側の意図がある。
　だから、どんなにくだけた内容でも、軽く見てはいけない。かえって、くだけた内容だからこそ、深い仕掛けが施されていると言える。

　このように、英語長文の内容は、「立派な大人」が考えるようなことが題材になっている。
　当然、これらの内容を理解するには、自分も、「立派な大人」に近い知性を持っていなければならない。普段、漫画ばかり読んでいる者が、いきなり新聞の「真面目な」ページを理解できるはずがない。
　一度、試しに英語長文問題の、訳だけを読んでみるといい。意外と、日本語で書かれていても、理解しにくいと思うはずだ。ましてや、それが英語になれば、尚更である。

　もちろん、こういうことは、なにも英語長文に限ったことではない。例えば現代文はまさに知性が問われる科目だし、古文や漢文も、古い思想を理解することで新時代の生き方を追求する、という知性的意義から存在する科目だ。
　社会科目は、我々が住む社会の背景を、歴史、地理、政治経済、といった観点から学ぶという、知性が問われる科目だ。
　また、数学は知性を支える論理的思考能力が問われるし、その他の科目についても、かならず知性が深く根ざしている。

　「知性」をつけることによって、試験で問われる内容の本質が見えてくる。本質が見えることは、試験問題を解く上での、大きな助けとなるのは言うまでもない。
　それに、「知性」は、頭の回転や記憶力とは関係がない。いかに自分を磨いてきたかで左右されるものなのだ。だから、「自分は頭が悪いから」などと言い訳しないで、とにかく知性がつけるべく、自分を磨き上げよう。

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「慣れる」ためには

2006年01月29日

　前項で、「慣れる」ためのポイントは、「毎日続けること」だと書いた。そのことに関連することとして、私の一浪時の経験を書きたいと思う。
　私の一浪時の、特に前半は、勉強時間がかなり長かった。その頃の生活パターンは、以下のようなものであった。
　――朝から予備校に行き、閉まるまで自習室で勉強する。次にレストランに行き、ジュースを飲みながらで夜中まで勉強する。帰宅して、夜中の三時頃に就寝する。次の日は八時半に起きてまた予備校に出かける。
　この繰り返しである。こんな調子で、だいたい一日に十七時間くらい勉強していたわけだ。

　だが、これが続いたのは前半までである。気持ちは前のめりだが、体がついていかなかった。それに、十分な睡眠を取っておかないと、ただ予備校に直行してもあまり意味がないことも分かってきた。眠くて勉強がはかどらないのである。だから、一浪時の後半は、勉強時間は少し抑えた。やる気は溢れるほどあっただけに、もどかしかった。

　さて、前置きが長くなった。本筋に入ろう。私が、一浪時前半の、猛勉強の時期を過ごして気付いたことを書きたいと思う。
　それは、「ダラダラと長時間勉強しても、あまり意味がない。むしろ、マイナスである」ということだ。

　長時間、勉強することの弊害を書こう。それは、
　「長時間の勉強することで、無意味な達成感を得てしまい、その結果、一つのことを継続しなくなる」
ということだ。
　もっとも、もし、あなたにコーチが一日中、付いていれば別だ。例えば、プロスポーツの世界では、長時間練習しても、コーチが付いているから、「長時間」という要素が逆に生きてくる。
　だが、受験生にはコーチは付かない。
　長時間、何かをやっていると、人間は達成感を覚えてしまうものだ。そのため、勉強した分野をその場で終わりにしてしまう。同じことを継続しないのである。

　ならば、どうすれば良いのか。それは、「ある一定のことを、少しずつ、かつ毎日やる」ことである。
　暗記物は、ある程度絞るべきだ。うろ覚えの知識が多くあっても役に立たない。重要な部分を集中的に、毎日、目に触れさせた方がいい。
　具体的なやり方としては、例えば英単語なら、毎日単語帳を数ページだけ見る。数回唱えたり書いたりするだけで良い。時間はかけないこと。そしてこの単語帳を毎日少しずつ新旧からめて進めていくのだ。そうすれば、すでに見た部分と新しく見る部分が、バランス良く重なりながら変わっていき、結果、一つの単語につき数十日間、ふれあうことになる。そうすれば、確実に血肉化する。
　英語長文は、毎日、音読すること。これは、同じものを一年中使った方が良い。これも時間はかけないこと。音読は、持続することによって効果が出る。短時間なら無理なく継続できる。一年やり通せば、「やり通した」という自信がつく。この「自信」は、大きな力になる。

　ひとつの単語を唱えるのに三十秒もかけなくていい。せいぜい五秒くらいにとどめ、その代わり毎日続けるのだ。そうすると、一日五秒なら、六日続ければで合計三十秒使うことになる。同じ三十秒でも、後者の方が数倍、生きた知識になる。
　このように、ひとつひとつのことに時間をかけずに勉強すれば、一日の総勉強時間は短時間ですむ。「慣れ」の要素を味方につけるべく、「短時間・継続作戦」で行こう。
（ちなみに、短時間とは、十時間くらいのことを指す。浪人生にとって、十時間は短時間のカテゴリーに入る。このことは別の項で触れる。）

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不合格体験記--ある浪人生の受験体験記です。

「三浪」―それは予想外の結果でした。が、多くのことを学びました。
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