7月31日 「有機栽培米」 |
妙な時間に起きたせいか、全く眠くありません。百姓です。 今日は一部健康志向消費者に話題の、有機栽培米についてお話しようと思います。断っておきますが、ものすごく専門的な話になるかと。 美味しいお米テキストでも触れましたが、お米の美味しさを左右するのは、お米に含まれる蛋白質の量です。美味しいといわれるお米は蛋白量が少ない。では、そもそも蛋白質の量はどうすれば減らせるのか。そこに関係してくるのが、稲が成長しお米が取れるまでに必要な、栄養分の量です。 お米が収穫されるまでに土壌から吸収する栄養分は、大きく分けて3種類あります。窒素・燐酸・カリです。この中で特に重要なのが窒素です。年間を通じ、稲はお米になるまでに面積10a当たりで、約10`の窒素を吸収します。当然ですが土壌の窒素量はどんどん減ります。この窒素量を必要な分維持していくために使用されるのが、肥料です。 窒素は稲が成長する為に、無くてはならない栄養分です。ただ問題なのが、窒素は栄養なので、お米が窒素を吸収しすぎると、「栄養が多い=蛋白質が多い」状態になるのです。 植物としての稲は、栄養をたくさん必要としますが、稲が充分に大きくなり、お米が出来るまでの間に栄養を吸収しすぎると、栄養分は蛋白質となってお米に溜まるのです。理想としては、ちょうど今くらいの時期に、10`必要な窒素のうち、7`くらいは吸収されているのが望ましい。そうすれば、植物としては良く成長した稲になり、お米部分はあまり窒素を吸わないので蛋白も低いという、良い状態になるワケです。 ところが、稲がこのような理想的なタイミングで窒素を吸収する為に、有機栽培はとても不向きなのです。実はそれこそが、北海道のお米の蛋白が平均して高くなりすぎてしまう理由にも共通するのです。 有機栽培とは、化学肥料を使用せず、堆肥(たいひ)を中心とした有機質肥料を使って栽培することです。化学肥料が体に悪いかどうかは、ここでは触れません。 堆肥などの有機肥料は、栄養の吸収率が低いのです。稲の成長の前半までに必要量を吸収しきれず、後半に窒素を吸いやすい、つまり、美味しくないお米が出来やすいワケです。逆に化学肥料は、非常に吸収率が良く、美味しいお米を作りやすいのです。 社会科で習って覚えている人もいるでしょうが、オレが住んでいる北海道の稲作地帯は、「泥炭地」と呼ばれる土壌です。地下20センチも掘ると、泥炭が出てきます。泥炭はつまり有機肥料と同じようなものです。北海道米は府県産米に比べ(生産者が何もしなくても)有機肥料を多く吸っているから、蛋白が高くなるのです。 「有機栽培の美味しいお米」は、作るのがものすごく難しいです。ただでさえお米が窒素を吸ってしまいやすいのに、そうしない為の絶妙な窒素吸収量のコントロールをしなければなりません。美味しい有機栽培米は確かに存在しますが、「有機栽培だから美味しい」ということは100%ありません。もし有機栽培米が無条件で美味しいのなら、北海道米が美味しくないという理由と明らかに矛盾しますからね。北海道米は何もしなくても有機栽培みたくなってしまうんですから。 健康面を考えて、化学肥料を使わない有機栽培米を選ぶことは、良いことだと思います。ただ、有機栽培だから美味しいお米になると思っている方がいたら、それはむしろ逆であるということは理解しておいたほうが良いでしょう。有機栽培のお米を食べて「いつもと味がちがう」と感じたら、おそらくそれは高蛋白の味です。北海道米と同じ味です。 オレたち北海道の生産者は必死に蛋白を下げる努力をし、健康志向な消費者は蛋白が高くなりやすい有機栽培米を求める・・・。なんだか矛盾した構図ではありますよね。 |