中国製冷凍ギョーザの中毒事件をめぐり、日中の警察当局の言い分が真っ向から対立している。製造過程での混入を疑う日本側に対し、中国公安省は「中国での混入の可能性は極めて低い」と言明した。
訪中して公安省次官と会談した警察庁次長が帰国し、「警察のトップ同士が早期解決に合意した」と成果を語った翌日、態度をひょう変させたのだから驚く。警察庁は、面目をつぶされた形だ。捜査資料も提供しているというから、中国側の記者会見での説明はうがちすぎていると映る。
暴力団対策や覚せい剤密輸の捜査を通じて、日中の警察の関係は極めて良好で、実務者同士が電話で情報を交換するほどだったという。警察庁側はさらに協力関係を深めようとしたのだろうが、胡錦濤国家主席の来日や北京五輪を控える時期だけに、中国側には政治的な思惑が入り乱れ、覚せい剤の捜査のようには両国の利害が一致しなくなったらしい。
犯罪の捜査は、国の主権にかかわる。捜査当局の関係がどうであれ、主権の壁は越えられない。そのことを見せ付けられた思いがする。中国側がこれ以上捜査するつもりがないということならば、とても納得はできない。
日本ではメタミドホスなどを入手できないし、密封状態で輸入された冷凍ギョーザに何カ所かで混入されたとは考えにくい。中国側が正常な製造ラインでの混入はあり得ないと強調することは理解できる。だが、自国での事件、事故の可能性を一方的に否定するのは説得力に乏しい。包装袋に水溶液が浸透するかどうかはデータを提供し合い、科学的に実証すべきだ。
日本側としては被害が発覚した兵庫、千葉両県の警察を中心に粛々と捜査を進めるべきだ。国外犯による殺人未遂などの容疑が固まった場合に、外交ルートを通じて当該国に代理処罰を要請するのが手順でもある。国外犯の対象となる犯行であるかどうかを精査した上で、日本での混入の可能性が皆無ではないことにも留意しつつ、国内外の世論が納得するように、精緻(せいち)な立証に努めるべきは言うまでもない。
この間、人為とみられる農薬の混入と中国産野菜の残留農薬問題が混然となって問題化したことにも留意したい。捜査当局としては、残留農薬対策などは所管官庁の手に委ねて、犯罪性の有無をしゅん別した上で絞り込んだ対象を内外に明確にする必要がある。
幼児らを一時は重篤な症状に陥らせた中毒事件の責任をあいまいにすれば、中国製品離れが加速することは必至だ。日中両国の市民のため、公正で科学的な捜査によって解明が進むことを期待したい。国際犯罪対策上も、日中の警察の不協和音は許されない。
毎日新聞 2008年3月1日 0時08分